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共同通信配信記事 2006年1月20日付

施政方針演説要旨 

 小泉純一郎首相の施政方針演説要旨は次の通り。

 【はじめに】「改革なくして成長なし」の一貫した方針の下、構造改革に全
力で取り組んだ。その結果、日本経済は不良債権の処理目標を達成、財政出動
に頼ることなく民間主導の景気回復の道を歩んでいる。日本社会には改革の芽
が大きな木に育ちつつある。ここで改革の手を緩めてはならない。自民党およ
び公明党による連立政権の安定した基盤に立って、郵政民営化の実現を弾みに
改革を続行し、簡素で効率的な政府を実現する。

 【簡素で効率的な政府の実現】政府の規模を大胆に縮減する改革の基本方針
を定めた行政改革推進法案を今国会に提出し、成立を期す。公務員の総人件費
を削減し、69万人の国家公務員を5年間で5%以上減らす。給与水準も民間
に合わせて見直す。政府系金融機関改革では民業補完原則を徹底し残すべき機
能を限定、8機関の統廃合や完全民営化を実現する。国有財産の売却や貸し付
けを進める。道路特定財源は現行税率を維持し、一般財源化を前提に見直す。

 「市場化テスト」を本格的に導入する法案、公益法人制度を役所の許可から
登記による設立に改める法案を提出。「国から地方へ」の方針の下、3兆円の
税源移譲、地方交付税の見直し、4兆7000億円の補助金改革を実施する。
市町村合併を推進、北海道が道州制の先行的取り組みとなるよう支援する。

 2006年度予算は新規国債発行額を30兆円以下に抑えた。定率減税は経
済情勢を踏まえ廃止。6月を目途に歳出・歳入を一体とした財政構造改革の方
向について選択肢と工程を明らかにする。国民的な議論を深めながら消費税、
所得税、法人税など税体系全体をあらゆる角度から見直す。

 【経済の活性化】金融システムの安定化が実現した今日、「貯蓄から投資へ」
の流れを進め、多様な金融商品やサービスを安心して利用できるよう法制度を
整備。国際競争力の強化、地域経済の活性化などを目指す新たな成長戦略の在
り方を夏までに示す。意欲と能力のある経営に支援を重点化し「攻めの農政」
を進める。公正な競争を確保するため違反行為に厳正対処する。

 【暮らしの安心の確保】社会保障制度全般を見直し、医療制度改革を進める。
国民皆保険を堅持しつつ持続可能な制度となるよう、高齢者の負担を見直し診
療報酬を引き下げる。75歳以上の医療費を世代間で公平に負担する制度の創
設、都道府県単位を軸に保険者の再編・統合を目指す。国民年金の未納未加入
対策を推進、社会保険庁は解体的出直し。厚生年金と共済年金の一元化に取り
組む。

 昨年は出生数が110万人を下回り、戦後初めて人口が減少すると見込まれ
ている。少子化の流れを変えなくてはならない。待機児童ゼロ作戦の推進、児
童手当を拡充、育児休業制度の普及などで子育て支援の環境整備。

 アスベスト(石綿)の被害者を救済する法案を提出。鳥インフルエンザの脅
威に対し、治療薬の備蓄、ワクチンの開発と供給を進める。

 【国民の安全の確保】「世界一安全な国、日本」の復活は、内閣の最重要課
題だ。07年春までに「空き交番」をゼロにする。外国人犯罪に対処するため
25万人と推定される不法滞在者を08年までに半減。テロ防止対策を徹底す
る。小さな子どもを犯罪から守るため、PTAや地域住民とも連携して登下校
時の警戒強化、不審者情報の共有を進める。犯罪被害者や遺族が立ち直り安心
して生活できるよう支援。交通事故死者数を5000人以下にすることを目指
す。

 民家の雪下ろしや雪崩の警戒強化、生活支援など大雪対策に万全を期す。耐
震強度偽装事件では、国民の不安を解消するため書類の偽造を見抜けなかった
検査制度を点検し、再発防止と耐震化の促進に全力を挙げる。

 【「人間力」の向上と発揮】心豊かでたくましい人材を育てなければならな
い。教育基本法の速やかな改正を目指し精力的に取り組む。食育推進基本計画
を策定し、食育を国民運動として展開。習熟度別の指導、学校選択制の普及を
通じ、教育の質の向上を図る。

 夢と感動を与えるトップレベルのスポーツ選手を育成。フリーターやニート
が増加しており、民間の力を活用して研修を実施するなど若者の就業を支援す
る。文化・芸術で新進気鋭の人たちの創作活動を支援、「日本ブランド」を広
く発信。

 【将来の発展基盤の整備】「科学技術創造立国」の実現に向け、第3期基本
計画を策定し研究開発を戦略的に実施。石油や天然ガスの安定供給の確保、新
エネルギーの開発、原子力発電の推進に取り組む。「IT(情報技術)新改革
戦略」に基づき、診療報酬明細書の完全オンライン化や役所の電子申請の利用
拡大などを進め、一人一人がITの恩恵を実感できる社会をつくる。

 【外交・安全保障】戦後わが国は自由と民主主義を守り、平和のうちに豊か
な社会を築いてきた。今後も日米同盟と国際協調を外交の基本方針にいかなる
問題も武力によらず解決する立場を貫き、世界の平和と安定に貢献する。

 在日米軍の兵力構成見直しでは、抑止力維持と沖縄はじめ地元の負担軽減の
観点から関係自治体、住民の理解が得られるよう全力を傾注する。テロ、貧困
克服、感染症対策などの問題に政府開発援助(ODA)の戦略的活用や人的貢
献により積極的に協力。安全保障理事会を含む国連改革に取り組む。

 イラク・サマワでの自衛隊の活動は現地から高い評価と信頼を得ている。現
地情勢と国際社会の動向を注視しつつ、自衛隊員の安全確保に万全を期しなが
ら国際社会の一員としてイラクの国づくりを支援する。

 北朝鮮とは日朝平壌宣言を踏まえ、拉致、核、ミサイルの問題を包括的に解
決するため、関係国と連携し粘り強く交渉する。ロシアとは北方4島帰属の問
題を解決し平和条約を早期に締結する基本方針で協力を拡大する。

 一部の問題で意見の相違や対立があっても、中国、韓国は大事な隣国であり、
大局的な視点から協力を強化し、相互理解と信頼に基づく未来志向の関係を築
いていく。

 東南アジア諸国連合(ASEAN)の地域統合を支援。世界貿易機関(WT
O)新ラウンド交渉は成功させなければならない。開発途上国からの輸入品の
関税を原則撤廃、新たな市場開拓を支援する。アジアをはじめ各国との経済連
携協定締結に取り組む。わが国周辺の大陸棚、海底資源の調査を進め海洋権益
の確保に万全を期す。国民保護法に基づき有事における態勢を整備する。

 【むすび】皇位が安定的に継承されるよう有識者会議の報告に沿い皇室典範
の改正案を提出する。新しい時代の憲法の在り方を大いに議論する時期だ。憲
法改正のための国民投票の手続きを定める法案は、憲法に沿って整備されるべ
きだ。

 われわれには難局に敢然と立ち向かい困難を乗り越える勇気と危機を飛躍に
つなげる力がある。幕末に吉田松陰は「志士は溝壑に在るを忘れず」という孔
子の言葉で、志を遂げるためにはいかなる困難をもいとわない心構えを説いた。
「改革を止めるな」との国民の声を受け止め残された任期、職責を果たすべく
全力を尽くす決意だ。