新首都圏ネットワーク
  トップへ戻る 以前の記事は、こちらの更新記事履歴

『朝日新聞』2006年1月12日付

人気薄の地方国大工学系、「出張入試」続々


 地元以外に受験会場を設ける「出張入試」が地方の国立大で広がっている。
06年度入試では少なくとも新たに3大学6学部が加わり、8大学14学部で
実施される。目立つのは、志願者の減少が続く工学系の学部。少子化に加え、
法人化によって「生き残り」への危機感が生まれ、広く受験生を集めようと必
死だ。

 06年度から出張入試を始めるのは、弘前大、岩手大、福井大。このうち青
森県の弘前大は理工、農学生命科学(農生)の両学部が同県八戸市と札幌市で、
人文学部が八戸市で、それぞれ前期日程の試験を実施する。

 理工、農生の両学部は、年々受験者数が減っている。例えば農生は03年度
に353人(競争率2.9倍)いた前期試験の志願者が、05年度は296人
(同2.4倍)に減った。齋藤秀昭入試課長は「法人化によって、国がバック
にいるという安心感がなくなった。早く手を打たないと手遅れになると思い、
決断した」と話す。

 札幌を「出張先」に選んだのは、同大の志願者に北海道出身者が多いからだ。
05年度入試の前期では農生に54人(全体の18%)、理工に116人(同
26%)が志願、青森出身者に次いで多い。

 一方、八戸会場は、県内受験生の取りこぼしを減らす狙いで設置する。県東
部の八戸から西部の弘前までは、特急で1時間30分かかる。盛岡市までだと
新幹線で30分。同市の岩手大などに、県東部の受験生が流出することを心配
した。齋藤課長は「新幹線が走る八戸会場に、県外から受験生を呼び込めれば」
と期待する。

 福井大は、工学部が名古屋市で出張入試を始める。同学部の志願者数の減少
傾向を食い止めるため、北陸の次に以前から志願者が多い東海地方に打って出
る。担当者は「名古屋なら、関西や関東からも受験生を呼び込めるかもしれな
い。生き残るために努力をしていかないと」。会場は、名古屋駅前の予備校だ。
岩手大も工、人文社会科学の両学部を東京で受験できるようにする。

 出張入試の先駆者は、秋田大工学資源学部(旧鉱山学部)だ。同学部の学生
の4分の3が県外出身者。隣県の岩手大工学部は56%だから、高率ぶりがわ
かる。1910年に、国策で前身の秋田鉱山専門学校が開設された当時から、
東京にも入試会場を設けてきた。

 150人の受験生のためにホテルの大宴会場を借り、教員ら約10人を派遣
する。費用は100万円以上。それでも同学部の水田敏夫教授は「学生は色々
な地域から集まった方が、お互いに刺激しあって元気がいい」と、今後も続け
る考えだ。

 工学系の学部に出張入試を始めるケースが多いことについて、代々木ゼミナー
ル入試情報センターの坂口幸世本部長は「工学系の学部は、少子化に加え、理
系の学生の医学部志向が強まり、志願者が減っている。地方ほど状況が厳しい
のは確かだが、『法人化したから何かやらなければ』という強迫観念もあるの
ではないか」と話す。