新首都圏ネットワーク
  トップへ戻る 以前の記事は、こちらの更新記事履歴

『日刊工業新聞』2006年1月1日付

科学技術創造立国実現へ−第3期基本計画、投資の重点人と個人に

 政府の総合科学技術会議(小泉純一郎議長=首相)は国策の科学技術創造立
国の実現に向け、06年度から5年間に取り組む科学技術政策と政策推進のた
めのシステム改革を盛り込んだ第3期科学技術基本計画を策定した。投資の重
点をモノから人、機関から個人に転換。 世界トップクラスの研究者を含めた多
様な人材育成を柱に据え、絶えざるイノベーションを通して研究成果を積極的
に社会に還元することを打ち出した。 投資目標は第2期計画を1兆円上回る総
額25兆円と明記、歳出カットが続く中、特段の配慮を行った。 3月末に閣議
決定する。

 資源の乏しい日本が経済と環境を両立させながら持続的な発展を続けるには、
競争力を生み出す源泉となる科学技術をさらに振興することが不可欠だ。 欧米
はもとより中国や韓国、インドなどアジア諸国も国力の源泉として科学技術の
強化に動いており、国際競争は一段と激化する方向だ。 難航した投資目標が年
末に総額25兆円と政治決着。 松田岩夫科学政策担当相は「日本が科学技術を
もとにして生きていく国であることを内外に示せる」と述べた。

 総合科学技術会議の基本政策専門調査会(阿部博之座長=総合科学技術会議
議員)がまとめた基本計画案は、基本理念、科学技術の戦略的重点化、科学技
術システム改革、社会・国民に支持される科学技術、総合科学技術会議の役割―
の5章で構成した。

【女性採用比率25%、トップ30拠点形成】

 このうちシステム改革は、(1)人材の育成・確保・活躍の促進(2)科学
の発展と絶えざるイノベーションの創出(3)科学技術振興のための基盤強化―
が3本柱。 人材育成では若手研究者への研究資金配分を高めて自立を支援する。
世界的な研究開発拠点を目指す大学にはテニュア・トラック制(若手研究者が
安定した職を得る前に任期付きの雇用形態で自立した研究者としての経験が積
める仕組み)をはじめ若手に活躍のチャンスを与える仕組みを導入し、スター
トアップ資金の提供や研究スペースの確保を支援する。

 競争的な環境を作り出すため、人材の流動性を高め、自校出身比率の教員を
抑制。 さらに、女性研究者と外国人研究者の活躍を促す。 特に女性研究者に
ついては科学技術系全体の25%となるよう採用の数値目標を設けた。

 絶えざるイノベーションの創出は3期の大きな目玉だ。 イノベーション創出
の鍵となる大学の競争力を高めるため、世界トップクラスの研究拠点(分野別
の論文引用数20位以内)を30拠点程度形成する。 2期で大幅に増えた競争
的資金を引き続き増やし、競争的資金のすべての制度で間接経費30%の措置
をできるだけ早く実現する。

 とりわけ、基礎研究から実用化のどの段階にある研究でも成果が出つつあり、
かつイノベーションの創出に発展する可能性のあるものについては切れ目なく
研究開発を継続し、実用化につなぐ仕組みを構築する。 こうした”イノベーター
日本“の実現により、連続的なイノベーションを生み出して「死の谷」の克服
を目指す。

 専門調査会では研究成果を社会化・産業化するための出口論議を深めた。 1
期に17兆円、2期に24兆円(実績21兆円強)と、10年間で総額38兆
円を投入した割にはイノベーションに結び付いたものは少ないと指摘されてい
るからだ。 イノベーター日本の実現は3期の大きな使命となる。

 また、産業界の参画を得て、日本が世界を先導する先端的な融合研究領域に
着目した「研究教育拠点の先端融合領域イノベーション創出拠点」(仮称)を
大学内につくる。 イノベーションが融合領域から生まれる可能性が高いのに対
応するのが狙いだ。 さらには、2期を通して産学官連携が進んだのを踏まえ、
研究課題の設定から基礎、応用までを見通した共同研究に取り組み、イノベー
ションにつなげる。

【戦略技術に選択・集中−成果目標も設定へ】

 一方の戦略的重点化は、第2期計画で定めた「ライフサイエンス」「情報通
信」「環境」「ナノテクノロジー・材料」の重点推進4分野に加え、「エネル
ギー」「ものづくり技術」「社会基盤」「フロンティア」の推進4分野と、国
家基幹技術を含む戦略重点科学技術を設定。 それぞれ選択と集中によって重点
化を図る。

 戦略重点科学技術は、国が社会課題の早急な解決を目指すもの、国際競争を
勝ち抜くために必要なもの、国主導の大規模・長期プロジェクト(国家基幹技
術)の三つに重点的に投資する。 国家基幹技術については次世代スーパーコン
ピューターや宇宙輸送システムを例示した。

 基礎科学でも「50年間にノーベル賞受賞者30人程度」との目標を引き続
き目指すことにした。  投資目標だけでなく、成果目標を設けることも第3期
の特徴だ。 現在、個別分野ごとに八つの作業部会に分かれて検討を始めており、
07年度までに電池効率を20%高めコストが10分の1の次世代燃料電池の
実現のための革新的材料の実用化、30年までに燃料電池自動車約1500万
台―など3月までに数値化できるものは個別施策ごとに数値を盛り込む予定だ。