新首都圏ネットワーク
  トップへ戻る 以前の記事は、こちらの更新記事履歴

『読売新聞』社説 2005年12月31日付

 [科学技術計画]「無駄にはできない25兆円の投資」


 財政状況は厳しくとも、科学技術への投資は緩めない。

 内閣府の総合科学技術会議がまとめた「第3期科学技術基本計画」の原案は、
そんな意気込みをにじませている。

 来年度から5年間で科学技術予算に25兆円を投じる、との目標を掲げた。
1期では17兆円、2期では24兆円の目標だった。この額を、さらに上回る。

 原案は、基本政策として、「社会・国民へ成果を還元する科学技術」「人材
育成」を柱に据えている。投資目標の25兆円は、その原資となる。民間の研
究開発投資を促す効果も期待されている。

 資源小国の日本が国力を維持し、発展を続ける上で、「科学技術創造立国」
は極めて重要だ。関係省庁は、貴重な投資が十分に生きるよう、施策を展開し
て行かなくてはならない。

 3期計画の初年度となる来年度予算でも、科学技術関係には、大きな比重が
置かれた。社会保障費を除き、他の予算が軒並み圧縮される中で、総額3兆5
733億円と前年並みを確保した。

 ここ数年、削減が続いていた宇宙開発機関の予算は、1801億円と7年ぶ
りに増えた。中国が有人宇宙飛行を成功させるなど、宇宙開発を巡る国際情勢
が激変していることが考慮された。

 新規の大規模事業も多い。文部科学省が要求していた「次世代スーパーコン
ピューター」の開発は、その一例だ。7年間をかけて、世界最先端、最高性能
のコンピューターの開発を目指す。総事業費は1100億円にものぼる。

 この分野には、欧米も大きな力を注いでいる。コンピューターを使ったシミュ
レーション(模擬実験)で、新素材や新薬などの開発を加速できる、との期待
がある。競争激化を見据えながら、世界一を目指したい。

 ただ、これまでの1、2期計画の成果を振り返ると、最先端の施設は整備さ
れたものの、それを十分に活用できているか、首をひねる例もある。

 例えば、阪神大震災並みの強い地震動を再現するため、文科省が400億円
をかけて建設した実験施設「E―ディフェンス」(兵庫県三木市)は、今春の
完成後、46日しか稼働していない。

 施設も巨大だけに、1回の稼働に1億円程度の巨費がかかり、一般の研究者
が気安く実験する訳にはいかない。

 造った、というだけでは、せっかくの施設が生きてこない。先端施設は、実
験でも多額の費用がかかる。

 民間を含めて研究者の多彩で野心的なアイデアが試せるよう、政府は、活用
も積極的に支援して行く必要がある。