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『日本農業新聞』論説 2005年12月28日付

農学系学部/もっと現場との連携を


 国立大学が法人化して2年目、それぞれに個性ある活動が求められている。
そんな中、信州大学農学部がJA長野県グループと協定を結び、元気な地域づ
くりに連携して取り組むという。大学と生産現場は近いようで遠い。垣根を低
くして、共に一歩踏み込んで農業問題の解決に当たる今回の取り組みを、全国
の農学系学部でも範としたい。

 信州大学の連携内容は多岐にわたる。人工衛星のデータを活用したリンゴの
生産計画や、野沢菜在来種の品種固定など大学の英知なくしてできないような
農業振興策に取り組む。また、人材の育成や交流も盛んにする。大学側がJA
向けに講座を開いたり、JA側が研究資金を提供したりしていく。

 双方が持つデータベースも公開し、相互の利用を推進するという。大学側は
とかく、研究室にこもり、現場に疎いと批判されがちだったが、こうした情報
の交換は、お互いによい刺激になるだろう。研究者は、より現実的な研究テー
マを、JAも高度な技術指導を日常的に、それぞれ得られる。ときには、世界
の農業技術情報も紹介してもらい、大いに視野を広げることも可能だろう。

 農業が第1次産業として、国民経済で重要な地位を占めていた時代には、農
学系学部にも活気があった。例えば育種学では、さまざまな研究成果を発表、
多くの研究者を輩出した。彼らは、国や地方自治体の試験場で次々と新品種の
開発に当たった。ところが最近、水稲の新品種開発予算は大幅に減り、その当
時の熱気はない。

 海外から安い農産物を輸入したほうが、国民経済的にはプラスになるという
市場主義的な考え方がはびこり、国内農業不要論が後を絶たない。こうした農
業軽視が、ひいては農学の軽視にもつながっている。いま、農学系学部と生産
現場が知恵を出し合い、こうした論調に反論、農業、農学の重要性を主張して
いかなければならない。

 現在、国立大学の農学系学部は30余り。戦後の学制改革で一県一国立大学
化が実現した。特に農業は、地域に密着しているだけに、多くの新制大学に農
学部が誕生した。最近では、「農」の字を省き、「生命」に変える大学も多い。
農業という産業から、より広く「生物産業」という対象を意識したのだろう。
しかし、農学系学部も農業も運命共同体である。戦後60年培った英知をいま
こそ農業の現場に還元すべきだろう。また、農業現場も、大学を敬遠すべきで
なく、大いに研究室に足を運ぼう。

 全国農学系学部長会議は2002年農学憲章を制定した。その中で、「農学
は、地域の農林水産業の振興を図るとともに、自然環境の保全・修復に関する
教育研究を通じて、地域社会に貢献する」とうたっている。ぜひこの精神を実
現してほしい。