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『朝日新聞』2005年12月28日付

井上氏の控訴棄却 京大任期制教授訴訟


 京都大再生医科学研究所(京都市)で「任期制教授」を務めた井上一知氏
(60)が、再任を拒否した大学側の決定の取り消しを求めた訴訟の控訴審判
決が28日、大阪高裁であった。武田和博裁判長は「原告の退職は任期満了に
よるもので再任拒否の処分があったとはいえず、その取り消しを求めることは
できない」として請求を退けた一審の京都地裁判決を支持し、井上氏側の控訴
を棄却した。井上氏側は即日上告した。

 判決によると、井上氏は98年5月、5年間の任期で同研究所の教授に就任。
学外の専門家で構成する外部評価委員会は02年9月、井上氏の業績を審査し
て「再任可」と判断した。同研究所の協議員会が同年12月の無記名投票で
「再任不可」の結論を出したため、大学側は井上氏の再任を認めない決定をし
た。

 判決は、再任の審査を同研究所の自主的な判断に委ねることは、大学の自治
を尊重する憲法の趣旨に合致すると指摘。「協議員会の判断が外部評価委員会
の報告に拘束されると解するなら、かえって大学の自治を損なうことになる」
と判断した。

 判決後、同研究所の中辻憲夫所長は「主張が認められ満足している」とのコ
メントを出した。

     ◇

 井上氏は教授の任期が満了した03年4月以降、京都市左京区にある同研究
所の教官室にとどまっている。

 同研究所は「口頭や文書の送付により立ち退きを求めてきたが、実現してい
ない」と説明している。

 ■大学教員の任期制 97年施行の「大学の教員等の任期に関する法律」で
導入された。教員の交流を促進して各大学の教育・研究活動を活発にするのが
目的。(1)先端的・学際的な研究などで多様な人材が求められる組織の教員
(2)研究活動を主な目的とする助手(3)期間の限られた特定の研究プロジェ
クトに携わる教員――が対象になる。任期や再任審査の方法などは各大学の裁
量に委ねられている。文部科学省によると、98年に99人だった任期制教員
は、03年10月時点で約8350人に増えている。