新首都圏ネットワーク
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日経ネット関西版 2005年12月26日付

目覚めた1年、ブランド戦略 磨き合う──産学連携2005


 2005年は関西の大学が、産学連携に目覚めた1年だった。企業や市場に開かれ
た姿をアピールするとともに、研究成果を大学のブランド価値の向上に生かす
試みが相次いだ。学内の技術を売り込み、企業との連携や外部資金の獲得に挑
む姿も目に付いた。

 ●「近大マグロ」

 12月中旬。東京都中央区の日本橋三越本店の売り場の一角に人だかりができ
た。店頭に見慣れないクロマグロが並んだからだ。近畿大学生まれの「近大マ
グロ」だ。

 生年月日や餌の種類など生産履歴を大学が公開することで、安心感から客の
購買欲をくすぐる。近畿大学水産研究所の大久保良雄事務長は「マグロの味に
厳しい関東の消費者の評価が楽しみ」と自信を見せる。

 近大はもともとタイやクエといった高級魚の養殖を手掛け、その技術力には
定評があった。02年6月、人工ふ化で育った親マグロが生んだ卵をかえし、再び
大きく育てる完全養殖マグロに世界で初めて成功した。

 04年9月に関西圏で百貨店などへ初出荷。05年9月から日本橋三越本店で週に
1匹のペースで販売を始めた。首都圏でもマグロを販売し、大学の名前が広く浸
透することにも期待する。

 大久保さんは近大発の養殖魚販売ベンチャー、アーマリン近大の専務も兼ね
る。「近大のモットーは実学。流通や販売の仕組みを研究できる好機が広がっ
た。消費者の声を研究に生かしたい」と意気込む。

 産学連携が大学のブランド価値や存在感を強める。こうした好循環に関西の
各大学が気づいたことも今年の収穫だった。

 ●酒に「神戸大印」

 「神戸大印のお酒を一緒に造ってくれませんか」。今秋、神戸大学農学部食
資源教育研究センターの保坂和良教授は兵庫県加西市内の蔵元、富久錦に飛び
込んだ。敷居が高いと言われがちな大学教授自らが、共同研究を持ちかけた。

 提携話はとんとん拍子で進んだ。兵庫県と共同開発した米の新品種「杜氏
(とじ)の夢」を神戸大の農場で栽培し、富久錦が来年2月にも神戸大印のお酒
を世に送り出す。保坂さんは「産学官の連携で、新しい酒米や新酒を普及させ
たい」と語る。

 神戸大は4月にも品種や生産技術を研究してきた但馬牛を出荷。日本橋三越本
店で「神戸大学ビーフ」として販売した。ブランドに目覚めた大学を象徴する
出来事だった。

 大学の技術力を研究費の獲得や人材教育に役立てる試みも盛んだった。三洋
電機、日立製作所、NTT……。今年、大阪大学が提携した企業は6社を数えた。
教員の総力を挙げ、次世代インターネットや燃料電池など有望分野に挑む。

 企業との包括提携に、一部の教員からは「トップ同士の思いつきで、研究テー
マを決められても困る」との不満も漏れる。だが、大阪大学の馬越佑吉副学長
は「企業と連携すると、多額の研究費が集まる。研究とともに大学が発展する」
と意に介しない。

 奈良先端科学技術大学院大学は東芝と「研究インターンシップ(就業体験)
制度」の協定を結んだ。普通は2週間程度の体験だが、新制度は最長半年程度ま
で延ばす。東芝の担当者は「リクルート活動ではなく、最先端の研究現場に参
加してもらう」と手厳しい。さっそく修士課程の大学院生3人が1―2カ月の洗礼
を受けた。これらの動きは大学と企業が組織同士で研究協定を結ぶ「包括提携」
が関西でも定着したことを印象づけた。

 ●京大に手応え

 大学関係者を勇気づける産学連携の成果も出始めた。京都大学がパイオニア、
三菱化学、ローム、NTT、日立製作所とタッグを組んだ産学連合は、紙のよ
うに曲がる極薄ディスプレー(表示装置)の試作にこぎ着けた。丸めて持ち運
べる電子新聞や電子ポスターが3年後にも実現すると話題を集めた。

 京大大学院農学研究科が繊維、パイオニアが発光材料、三菱化学が高分子と
それぞれの得意な材料を持ち寄り、02年度から開発を急いでいた。

 京大の責任者である年光昭夫教授は「京大と5社が組まなかったら成果は生ま
れなかった」と感慨深げ。学内で専門の違う教員同士の交流を促す「学学連携」
の効果が表れたこともうれしかったという。

 京大は5月、ブランド戦略でも電通と協力し、企業のスポンサーを募る制度を
立ち上げた。京大にちなんだマークを使う企業から協賛金を得て、奨学金など
へ充てる計画だ。

 大学が産学連携に突き進む背景には、教育研究や経営の基盤を強化したいと
の思惑も透けて見える。来年以降も生き残りをかけた次の一手を模索する動き
が続きそうだ。
 (大阪経済部 加藤宏志)

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