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日経ネット関西版 2005年12月22日付

国公立館、「効率化」で苦闘──美術2005、展覧会は充実 中国関連続々


 今年は美術館、博物館の役割が問われた1年だった。官から民への大きな流れ
の中で、関西の国公立ミュージアムは一層の運営効率化とサービス向上を求め
られ苦闘した。海外の名品を集めた展覧会は活況だったが、所蔵品中心の常設
展には人が集まらない。ファンをいかに増やすか、市民、非営利組織(NP
O)、アーティストが一緒に考え、取り組む事例が増えてきた。

 全国的に注目された芦屋市立美術博物館の存続問題は、市が直営し業務を外
部委託することで決着した。委託先はNPOの芦屋ミュージアム・マネジメン
トが有力で、公立ミュージアムの運営をNPOが事実上担う全国初のケースと
なりそうだ。休館という最悪の事態は存続を求める市民の声で避けられたが、
NPOの経験は浅い。どんな企画を打ち出すか注目したい。

 運営効率化を求められているのは独立行政法人の国立ミュージアムも同じ。
運営の担い手を官民競争入札で決める市場化テストの来年度導入が議論されて
いる。「利益や効率優先で基礎研究に当たる分野が軽視される」(岩城見一京
都国立近代美術館長)、「受託期間の関係で展覧会の企画者と実施者が異なる
ケースが生まれる。外国の美術館に信用されない」(建畠晢国立国際美術館長)
などと、危惧する声は多い。

 こうした運営を巡る攻防はあったが、各ミュージアムの展覧会は充実した1年
だった。特に目立ったのが中国関連。国立国際美術館「中国国宝展」(1―
3月)、大阪市立美術館「大唐王朝―女性の美」(4―5月)、兵庫県立美術館
「新シルクロード展」(8―10月)、MIHO MUSEUM「中国★美の十字
路展」(9―12月)など、どれも“国宝”級の貴重品が並び、中国文化の奥深さ
を再認識させられた。

 西洋美術の粋を伝える展覧会も多かった。兵庫県立美術館「ドレスデン国立
美術館展」(3―5月)、国立国際美術館「ゴッホ展」(5―7月)、神戸市立博
物館「ベルリンの至宝展」(7―10月)、京都市美術館「ルーヴル美術館展」
(7―10月)などは多くの美術ファンを魅了した。

 仏教美術分野でも大阪市立美術館「興福寺国宝展」(6―7月)、京都国立博
物館「最澄と天台の国宝」(10―11月)など好企画が多く、ふだん間近で鑑賞
できない仏像の前に多くの人が並んだ。

 大型企画が打ち出しにくい地方の美術館、博物館の展覧会も工夫が目立った。
滋賀県立近代美術館「高田敬輔と小泉斐」(4―5月)は江戸期の関西と関東の
絵師のつながりを栃木県立美術館との共同企画によって示した。奈良市写真美
術館「土門拳・入江泰吉2人展」(10―12月)は本格的な2人の巨匠展を土門拳
記念館(山形県酒田市)の協力で初めて実現し、企画力によって所蔵品は何倍
も魅力を増すことを証明した。

 現代アートの分野でもファンを増やす努力が目立った。例えば、伊丹市立美
術館「いのちを考える」(8月)は地元の中学生が身の回りの物を入れた透明の
袋を作り、美術家の山口啓介が再構成して展示した。創造の楽しみを子供たち
に伝えるだけでなく、美術館での展示にたえうる作品に仕上げた山口の力量が
光った。

 現代美術の祭典、大阪・アート・カレイドスコープ(大阪府立現代美術セン
ター主催)は2回開催された。11―12月の第3回カレイドスコープは大阪で活躍
するアート系のNPO8団体が企画・運営を担当、一般の参加者がアーティスト
と共に創作活動を行うイベントなどが繰り広げられた。

 横浜トリエンナーレ(9―12月)では高嶺格、奈良美智と組んだgrafなど
関西のアーティストの作品が高く評価された。関西の現代美術の作家は層が厚
く活躍の場も広がっているが、鑑賞者が若者に偏る傾向は変わらない。中高年
層にも魅力を伝える努力は引き続き必要だろう。(大阪・文化担当 兼吉毅)