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『朝日新聞』茨城版 2005年12月17日付

日立は今(2) 進む産官学連携

 日立の中小企業の独自商品。開発を後押ししているのが産学官連携だ。

 「将来は我が社の柱の一つになる」。家電部品を造る「亀屋工業所」の根本
和夫企画室長(66)が期待するのは、約2年前から茨城大工学部の増沢徹教
授らと共同で開発を始めた新型の床ずれ防止ベッドだ。

 家電製造の旧日製多賀工場(現・日立ホーム&ライフソリューション電化事
業部)の下請けで洗濯機部品が主力。上海の工場は仕事が増えているが、「日
立の工場の作業量は減っている」(根本室長)。そこで高齢社会で需要が見込
まれる福祉分野に進出した。

 ベッドには昇降する15個の箱が組み込まれている。各箱にかかる圧力を自
動測定し、1カ所に体重がかからないよう箱が個別に上下し、床ずれを防ぐ構
造。介護者による体位交換が必要なくなるのがメリットという。亀屋工業所が
昇降する箱の製造を担当し、増沢教授らの技術をもとに試作品を作り、現在は
性能試験中だ。根本室長は「開発には技術が必要。県内は研究機関が多く、連
携を深めたい」と語る。

 常陸太田、日立両市に工場を持つ医療用分析装置製造会社「三友製作所」も、
01年度から産業技術総合研究所(つくば市)と半導体検査装置などの開発を
進める。ナノテクノロジーを活用した製品で「技術だけでなく、研究所には商
品開発に参考になる情報が多い。連携のメリットは大きい」と加藤木克也社長
(54)は話す。

 技術を提供する大学や研究機関も、独立行政法人化などを背景に外部への門
戸を広げている。

 「法人化した大学は民間企業と同じ。何でも相談してほしい」。茨城大工学
部の白石昌武部長は11月初め、企業経営者らが集まる講演会で呼びかけた。

 同大工学部を中心に昨年7月に発足した「ひたちものづくりサロン」。工学
部内の共同研究開発センター(塩幡宏規センター長)が窓口となり、教員と企
業が共同研究を進める。機械金属や音響・振動制御など13グループに日立市
周辺の中小企業77社が参加。現在、製品内部のひび割れを音の振動で調べる
診断装置など計17件の開発が進む。

 今年11月末、県内の大学や研究機関計10機関や福祉関連企業などが連携
する「茨城ライフサポートコンソーシアム」も発足。需要が高まる福祉や医療
分野の商品開発を目指している。

 県も7月、日立市内の12社を含む約50社の中小企業などが参加する「茨
城マグネシウムプロジェクト」を立ち上げ、マグネシウムを活用した商品開発
に乗り出した。

 ただ、始まったばかりの産学官連携には課題もある。塩幡センター長は「今
の連携は教員と経営者など個人間にとどまっている。開発過程で生じる課題に
対応するため、企業間の連携など地域全体のネットワークを作っていきたい」
と話す。