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『読売新聞』2005年12月8日付

大学は、いま 連載III 第3部 産学連携
<5> 人材育成


技術の高度化に対応 新しいシステム作り

 「低金利の時代ですから、変動金利の金融商品がお勧めです」「どこに利点
があるんですか」――。

 岡山市に本店がある中国銀行の会議室。行員が演じる客に、金融商品を勧め
るのは岡山大の学生だ。今年8月、連携協定を結んでいる岡山大からインター
ンシップの学生を受け入れた。実務訓練は、先生役の行員から商品の説明方法
やあいさつの仕方、客に話すときのマナーまで社員研修に近い指導が行われた。

 「社会では知識だけでなく、人間的な魅力が必要だと実感した」という学生
の感想に、金融営業部調査役の三好隆弘さんは「銀行は投資や融資の判断が第
一」と実務の厳しさを語る。

 文部科学省の調査では、学生を企業などに派遣するインターンシップは、2
004年度は全大学の59%で実施、学生約3万9000人が体験した。5年
前の2倍になっている。05年度は66%の大学で行われる見込みだ。

 学生の就業体験や職業意識の向上を目的にしたインターンシップは、優秀な
学生の確保を目指した、より実践的なものも増えてきた。中国銀行には、参加
した6人のうち2人が来春、入行する予定だ。

 今年10月、信州大工学部と長野県北信地区の富士通グループが結んだ包括
的連携協定は、人材育成を連携の柱に据える。

 富士通長野工場に大学院生を週2回計20回にわたって派遣する。学生は研
究所や事業部門に配属され、半導体関連の技術開発にあたる。富士通側は「学
生も社員同様に仕事をし、一定の成果を上げることが必要だ」とし、個人情報
の保護や機密保持などの服務規程の順守も求めるなど、研究、開発に深くかか
わる。

 こうした技術の高度化に対応できる人材育成の動きは、2007年以降、製
造現場でベテラン従業員が大量に定年退職の時期を迎えるという差し迫った問
題に深くかかわっている。

 これまで、ベテランと若手がともに仕事をする中で、技術継承はされてきた。
これができなくなるのではないか、という心配だ。

 経済産業省は今年度、「産学連携製造中核人材育成事業」を創設した。技術
を持つ現場と教育のノウハウがある大学が連携した新しい教育システムづくり
を支援し、若手に技術を伝えられる仕組みをつくるのが目的だ。全国の大学な
どの取り組み計36件を採択した。

 事業に採択された三重大では、企業の従業員を対象に、技術革新が著しい機
械工学・電気・電子工学などの分野の基礎を重点に、市場ニーズに対応する生
産管理や環境に配慮した技術の習得などを盛り込んだ教育システムを構築する。

 同大学が三重県内の30人以上の企業435社に調査したところ、企業が若
手への技術・ノウハウの伝授について、約40%が「スムーズとはいえない・
あまりスムーズとはいえない」とし、大学に期待する企業が多いことがわかっ
た。

 野村由司彦・工学部教授は「再教育によって工学の基礎を身につけた視野の
広い技術者を育成できる。大学にとっても学生や大学院生を実践的な技術者へ
と育成する教育システムが可能になる」としている。

 日本インターンシップ学会関西支部長の槇本淳子・大阪経済大教授は「現場
を経験すると、大学で何を学んでいくべきか、社会に出たら何が求められてい
るかという意識が育つ。企業での研修期間の長期化や内容の充実が今後の課題
だ」と話す。ものづくりや技術革新が脚光が浴びる産学連携とともに、人材育
成に焦点を当てた連携の成果が注目される。

(第3部終わり)
(水谷工、向野晋、山本由典、木須井麻子)