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『読売新聞』2005年12月7日付 大学は、いま 連載III 第3部 産学連携 <4> 地域活性化 産業の潜在力 引き出す 複数企業結び技術革新 ヨーグルトの乳酸菌は普通、動物由来だ。この「常識」を覆したのが広島大 の杉山政則教授と「野村乳業」(広島県府中町)が共同で開発した「植物乳酸 菌から生まれたヨーグルト」。植物乳酸菌は生きたまま腸内に届きやすいとさ れ、健康志向の消費者に人気だ。 植物乳酸菌は漬物やみその発酵に使われるが、牛乳などでは発酵が進まず、 固形ヨーグルトはできないと言われてきた。 「酒かすを混ぜたらどうか」。杉山教授が同社の研究員に助言したのが20 03年夏。研究員から「酒かすで普通のヨーグルトの発酵時間が大幅に短縮さ れた」と聞き、「植物乳酸菌の発酵も促進するのではないか」と考えた。 予想は的中した。様々な候補からナシの乳酸菌を選び、風味などを考慮して 日本酒の酒かすから焼酎のものに切り替えた。 微生物学が専門の杉山教授は3年前、酒造会社「中国醸造」(廿日市市)の 依頼で酒かすの研究を始め、日焼けの原因となるメラニン色素の生成を抑える 物質やアトピー性皮膚炎を改善する物質を酒かすの中から発見した。 広島地域は、文部科学省が産学官連携で地域産業の振興を図る「知的クラス ター創成事業」の対象として02年度に選んだ10か所の一つ。酒どころ・広 島の酒かすを活用した製品開発プロジェクトが加わった。 クラスターはブドウなどの果物の房の意味。大学を中心に複数の企業が結び つくことで相乗効果を生み出しながら、技術革新を進めようというのだ。 このプロジェクトでは、食品会社など6社と連携し、植物乳酸菌の機能研究 も進め、病気の予防効果を持つ物質を大量に生成する乳酸菌を使った漬物など も共同開発中だ。 杉山教授は「大学発ベンチャーの起業を勧められることもあるが、地元企業 に業績を上げてもらう方が地域経済のためになる」と話す。 大学や研究者が持つ「力」を活用して地域活性化を目指す動きは各地で始まっ ている。 高知市から約20キロ、木々に囲まれた高知工科大キャンパスの北端にある 連携研究センターでは、地元の16社が技術指導を受けながら開発研究に取り 組む。統括する横川明教授は「中小企業にとっての駆け込み寺になりたい」と いう。 高知市の豆腐メーカー「タナカショク」は、室戸の海洋深層水から作ったニ ガリを用い、大豆の風味や甘さを一段と引き出した「深層水豆腐」を開発した。 研究センターで2000年から3年間、指導を受けた。田中幸彦社長は「壁に ぶつかる度にセンターの産学連携コーディネーターが解決に導いてくれた」と 話す。 「高知発」の産業として最も力を入れるのは、次世代液晶ディスプレーの材 料と期待される酸化亜鉛技術の拠点形成だ。経済産業省の「地域新生コンソー シアム研究開発事業・地域ものづくり革新枠」に採択され、折り曲げ可能な超 薄型基板の技術をもつ「ニッポン高度紙工業」(高知市)など県内9社を含む 11社が参加する。 酸化亜鉛を使ったディスプレーは曲げられる特徴がある。統括事業代表者の 水野博之副学長は「酸化亜鉛と言えば高知、と呼ばれるのが目標。地域活性化 には特徴のあるクラスターを作るのが有効だ」と話す。 製造品出荷額でいつも下位にランクされる高知県。こんな現状の打破を目指 して1997年、県の主導で設立された高知工科大は新しい地域産業や特産品 づくりの中心的役割を担う。 大企業や研究機関が少ないという不利な条件を抱える地域にとって、産業の 潜在力を引き出す大学の存在はますます大きくなっている。 |