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『毎日新聞』2005年12月7日付 科学技術関係予算:財政再建へ「聖域」認めぬ/他国の伸びに後れ、取る ◇揺れる科学技術立国予算 「科学技術創造立国の推進」という号令の下、増え続けてきた科学技術関係 予算の行方が揺れている。来年度から向こう5年間の政策方針を定めた第3期 科学技術基本計画へ、従来通り予算の投入目標額を盛り込むことに財務省が難 色を示しているためだ。12月下旬の決着に向け、科学者などの声を背景に他 国に後れを取ると訴える各省と、財政再建のため「聖域化」を認めないとする 財務省の攻防は続く。【永山悦子】 「国が今後も科学技術創造立国を目指すという姿勢を、国民に一番分かりや すく伝える方法が予算の投入目標だ」−−。 11月24日、第3期計画を検討する政府の総合科学技術会議の専門調査会 が開かれた。投入目標に関する集中審議で、戸塚洋二・高エネルギー加速器研 究機構長はこう強調した。研究者が中心の委員の多くからも「新計画にも投入 目標を掲げるべきだ」との意見が続いた。 政府は過去、96年度からの1期計画では5年間で「計17兆円」の予算投 入額を明示。01年度からの2期計画ではさらに24兆円に増額された。自民 党の科学技術創造立国推進調査会は今年7月、「06年度からの目標は26兆 円とすべきだ」と決議し、予算の拡充を求めている。26兆円の根拠は、欧米 並みに対実質国内総生産(GDP)比1%を確保するというものだ。 ところが財務省は、「科学技術も聖域ではない」と、来年度以降の科学技術 関係予算の削減を強調。先月まとまった財政制度等審議会の建議では、「国民 への成果に着目した目標設定が必要だ。投入目標は設定すべきではない」と明 記された。 同省の中川真主計官は「最近、国民の科学離れが進んでいる。国民が支持し ていない分野の予算を増やすことを、国民が望んでいるとは考えにくい」とい う。 3期計画の案に盛り込まれた投資先の絞り込みについても、「これでは言葉 遊びにしか見えない。これまで予算を増やしてきたのに、日本人研究者の論文 が引用される頻度も下がっている」と分析する。 これに対し文部科学省幹部は「基本計画にさまざまな施策を盛り込んでも、 金の裏付けがなければ、単なるおねだりリストになってしまう」と反発。背景 には日本の05年度の科学技術関係予算はGDP比0・79%と、前年比の伸 び率はマイナスに転じ、中国、韓国など科学技術新興国の予算の伸びには遠く 及ばない事情への焦りもある。 ◇「明日への投資」と小泉首相は含み 小泉純一郎首相が出席して11月28日に開かれた政府の総合科学技術会議 本会議。谷垣禎一財務相は「投入目標を設定することは、成果に着目して予算 配分するという大きな流れに反する」と強調した。小泉首相は「科学技術は明 日への投資。予算を増やしていかねばならない数少ない分野だ。削るところは 削って、増やすところを増やしてほしい」と含みを持たせている。 ◇知への投資欠かせぬが、徹底した集約が必要 米倉誠一郎・一橋大教授(経営史)は「英国では『Science for GDP(GDPに貢献する科学)』と言われ、国力の維持に科学が欠かせない と認識されている。日本が、今後も世界における影響力を保つには、知への投 資が欠かせない」と科学技術関係予算の確保を訴える。 一方で「国の将来像を明確にし、その目標達成に必要な分野へ集中した投資 にしなければ、国民の理解は得られない。例えば、米国が月へ人を送ることを 目指すなら、日本は宇宙開発予算を凍結して燃料電池車開発に全力を挙げるな ど、徹底した集約が必要だ」と指摘する。 ============== ◇第3期科学技術基本計画 「新発見や発明」「環境と経済の両立」「安全が誇りとなる国」など六つの 目標を掲げるとともに人材重視政策への転換を求めている。2期計画までの大 規模な予算投入によって、日本人研究者の論文数、特許出願数は増加し、すそ 野の広がりに貢献したが、一方で同じような研究に予算が偏ったり、特定の研 究者に予算が集中するなどの弊害もあり、この反省から3期計画では投資先を 一層厳選し、研究成果に対する評価の徹底を盛り込む予定だ。 |