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『読売新聞』2005年12月6日付

大学からの技術移転、知財ビジネスの課題


 学内の研究で取得した特許などの知的財産権を企業に有償で転用する「知財
ビジネス」の取り組みが、九州・山口の大学でも広がりつつある。日本企業の
競争力低下が懸念される中、政府も知財の産学連携を強化しているが、研究者
の意識改革や専門人材の育成など課題も少なくない。(安田大輔)

 政府は2003年度から5か年にわたり、知財の戦略的な活用を促す「大学
知的財産本部整備事業」に着手した。知財の体制整備を図るため年1000万〜
6000万円の補助金が支給され、地元からは九州大、熊本大、九州工業大、
山口大の4校が選ばれている。

 企業の職務発明と同じく、学内の研究活動で得た知財権は教授個人ではなく、
原則として大学側に帰属する。各校の知財本部が「技術の種」を掘り起こし、
技術移転機関(TLO)などと連携してメーカーなどに移転する仕組みだ。

 国公立大の独立行政法人化に伴い、大学の財政的な自立が求められるように
なったことも知財ビジネスの背景にあり、4校のほかにも独自に知財本部を設
置する動きが活発化している。

 ◆積極的に企業へPR

 九工大は、技術の目利きができる専門企業と提携し、学内に眠る「民間で使
える技術」の発掘や評価を進める一方、東京に事務所を設け、宇宙環境や先端
金型など九工大独自の技術をメーカーにPRしている。

 OB技術者の協力も得て知財本部を強化し、04年度は500万円程度だっ
た企業からの技術移転収入を、07年度には5000万円に増やす計画だ。新
日鉄化学で知財部門の経験を積み、九工大にスカウトされた中村邦彦教授は
「知財本部を大学のプロフィットセンター(収益部門)にしたい」と話す。

 ◆専門家育成が急務

 ただ、多くの大学は知財戦略を明確に描けていないのが現状だ。

 10月下旬に北九州市で開かれた大学関係者のシンポジウムでは、「総合大
学ということもあり、学内で知財に対する関心が低い」(鹿児島大)、「スタッ
フが少ないうえ、専門的な人材の育成も困難だ」(長崎大)など厳しい状況が
報告された。

 政府はこうした課題に対応するため、知財の専門家を大学に派遣する事業を
進めており、九州・山口では3人が活動している。

 その一人でソニー出身の安田英且・長崎大客員教授は、各教授の研究内容を
聞き取り調査し、技術のデータベース化を進める。

 大学側にとって、企業との技術移転料を巡る交渉は不得手な分野でもあるが、
安田教授は「正当な対価を受け取れるよう、大学も民間と対等に交渉できる人
材が必要だ」と力を込める。

 各大学の知財本部は、先発的な組織として九州・山口に九つあるTLOと、
機能が重複している面もある。今後は双方の役割分担を含め、知財戦略を担え
る人材の育成や効率的な体制の整備が求められている。

 技術移転機関(TLO) 特許など大学が持つ知的財産を民間企業に橋渡し
する組織。大学の内部機関、株式会社型など様々な形態があり、全国で41機
関(9月末現在)が国の承認を受けている。