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『読売新聞』2005年12月6日付

大学は、いま 連載III 第3部 産学連携

<3> 中小企業

技術力 橋渡しへ
新しいモデル確立 模索

 大阪府堺市の特殊精密部品メーカー、「中村超硬」が開発したインプラント
(人工歯根)手術用の新型ドリルが、経験と勘に頼りがちだった手術の安全性
を向上させる器具として注目を集めている。

 大阪大の研究者が神経までの深さをコンピューター断層撮影法(CT)で測
るシステムを考案し、事業化に向けてベンチャーを設立。アイデアを具体化す
るため産学連携のパートナーとして白羽の矢を立てたのが、特殊素材の精密微
細加工などの技術を持つ中村超硬だった。

 開発した新型のステンレス製ドリルは、患者の歯の神経を傷つけやすく扱い
が難しかったドリルの表面に、レーザーで目印を焼き付けるなど歯科医が確認
しやすく工夫した。

 同社は大阪大との共同研究を数件進めており、井上誠社長は「大学に近いと
ころにいたことでチャンスが舞い込んできた」と話す。しかし、大学とのつな
がりをきっかけに、製品化に取り組んだ中村超硬のような中小企業は少数派だ。

 文部科学省が昨年度の産学連携の成果として、大学と企業との共同研究数を
まとめたところ、中小企業は3111件で28・9%を占めた。しかし、製造
業だけでも30万に近い中小企業の数と比べると低水準にとどまっているのが
現状だ。

 日本総合研究所の横田朝行主任研究員は「すそ野が広がらないのは、共同研
究に求めるものが大企業と異なるため」と分析する。自前の研究開発部門をも
つ大企業は、連携の成果を時間をかけて実用化しようとする。経営資源に余裕
が乏しい中小企業は、短期間で成果を求めがちだという。

 大学との接点は少ないが、意欲も技術力もある経営者と大学とのマッチング
(出会い)をどう進めていくかが課題になってくる。

 大阪商工会議所では、テーマを絞って会員企業に大学のニーズを提案し、や
りたい企業・経営者が手を挙げる「この指とまれ」方式でマッチングの場づく
りをしている。

 「ロボット関連技術研究会」の座長を務める奈良先端科学技術大学院大の小
笠原司教授は「研究開発を進めていると、部品などの試作品が必ず必要になる。
モノづくりにたけた中小企業の経営者との出会いの意義は大きい」と大学側の
メリットを強調する。

 インターネットで「出会い」を提供するのは、大阪北部の中小企業約600
社が加盟する北大阪地域活性化協議会の「北大阪RSネット」だ。関西の各大
学から注文を請け負い、これまでにレーザー実験用の工作台など特殊な加工を
施した道具や設備を提供した。

 当初は年一回、大学との共同研究を目指す交流の場を設けていたが、実績が
上がらずに2003年からこの方式を導入した。清水利夫理事長は「大学の先
生となじみになれば、その後のビジネスチャンスも期待できる」と指摘する。

 日常の業務を大学との橋渡しに結び付ける取り組みもある。近畿大阪銀行は
昨年末に大阪府立大と包括提携を結び、産学連携に関心を示す中小企業の顧客
を大学側に紹介している。営業統括部の鈴木一孝グループリーダーは「営業マ
ンは難しい技術はわからなくても、将来性があるかどうかなどは見抜くことが
できる。顧客が成長すれば、銀行の成長にも反映される」と話す。

 90年代以降の製造業大手の海外移転に伴い、下請け型が姿を消す一方、専
門分野では大企業を上回る技術力の中小企業が現れている。「ものづくり」が
得意な中小企業による産学連携モデルの確立は、日本経済の強みである製造業
の復権にもつながると期待されている。