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『朝日新聞』社説 2005年12月5日付

設置審査 お粗末な大学は排除を


 来春開校をめざす大学や大学院などについて、大学設置・学校法人審議会は
認可すべきかどうかを文部科学相に答申した。

 今回の審査は異例ずくめだった。

 まず、学部を持たない大学院大学が12校も新設を申請し、過去最多となった。

 そのうち2校が不認可となった。保留や取り下げを含めると、認可されなかっ
たのは計5校にのぼる。ほとんどが開校を認められた過去の審査とは大違いだ。

 この事態を受けて、審議会の永田真三郎会長はコメントを発表した。「総じ
て準備不足が目立つ」「大学としてふさわしくない申請も見られた」。そうし
た苦言も、あまり例がない。

 今回の審査がこれまでより厳しかったわけではない。認可が少なかったのは、
ひどい内容の申請が増えたためだ。


 インターネットによる通信教育をめざした長野市の大学院大学は、民家の2
階を学長室や事務室としていた。とても大学を運営できる施設ではない。

 アニメ制作者などの養成をめざす東京都の大学院大学は、専任教員の報酬を
月に10万円以下としていた。これでは大学の仕事に専念できるはずがない。

 これら不認可となった2校は、いずれも構造改革特区を利用した申請だ。

 私立大学の開設は学校法人に限られているが、特区では株式会社も開設でき
る。校地や校舎も借り物でいい。

 特区で規制を緩め、開設しやすくしたのは、時代に合った教育を実現し、学
生の様々な要求に応えるためだ。

 今回の答申でも、学習塾の経営会社による教員養成の大学院大学などが認可
された。従来の枠にとらわれない新しい型の大学は、今後も求められている。

 しかし、特区からの申請であっても、教育や研究の体制は十分整っていなけ
ればならない。とりわけ学生の教育にはきちんと責任を持つ必要がある。お粗
末な大学がまかり通るようでは、日本の大学が国際的にも信用を失いかねない。

 経営の安定も重要だ。少子化で受験生が減り続け、すでに定員割れの私大は
3割にのぼる。経営が破綻(はたん)して学生が放り出される事態は避けねば
ならない。

 永田会長は文科省にも注文をつけた。認可した大学や大学院の教育について、
最初の卒業生を送り出すまでしっかり追跡調査をする。大学院大学をじっくり
審査するため、審議会で論議する期間を大学と同じように長くする。負債のご
まかしや教員予定者の業績の水増しなどの虚偽申請に罰則を科す。

 いずれも、もっともなことばかりで、早急に実現すべきだ。

 大学の質の保証は、事前の設置審査から、開校後の第三者評価に重点を移す
方向にある。とはいえ、評価は7年に一度しかない。新設の大学や大学院の受
験生にとって、認可は大きな判断材料だ。

 学生を守るために、設置審査の役割は今後も重要だ。厳しく目を光らせ、お
粗末な大学や大学院は排除してほしい。