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新首都圏ネットワーク


『朝日新聞』2005年11月29日号

科学技術予算増額に「黄信号」 数値目標、財務相が反対


 厳しい財政下でも例外的に増額し続け、年間4兆円を超えた国の科学技術予
算に「黄信号」がともった。28日の総合科学技術会議(議長・小泉首相)の
本会議で、谷垣財務相が「成果主義の流れに反する」として、増額を支えてき
た予算の数値目標設定に反対。年末の予算編成を控え、文部科学省などと激し
い綱引きが始まっている。

 総合科学技術会議は現在、06年度から5年間の国の「第3期科学技術基本
計画」を作成中だ。第1期の基本計画では17兆円、第2期では24兆円とい
う科学技術予算の数値目標が明記され、これが「錦の御旗」となって10年間
で目標に近い39兆円の予算を獲得してきた。

 28日の本会議では、谷垣財務相が「予算は全体として削減の方向で、科学
技術も例外ではない。投入目標ではなく、成果目標が必要」と第3期で予算の
数値目標を入れることに明確に反対した。

 財務省側は、海外の研究者に引用される質の高い論文の割合が伸び悩んでい
る▽科学技術に関心のある国民は2割台で欧米の3〜4割台より低いなどの理
由を挙げ、「『投入総額を決めて配分しましょう』では、かつての公共事業と
同じ発想だ。納税者の理解が得られない」(中川真主計官)と攻勢をかける。

 一方、小坂文科相ら大半のメンバーが数値目標の堅持を主張。科学技術予算
の6割を占める文科省は「長い目で見て、基礎研究から技術革新につなげる投
資をしないと、日本の活力は維持できない」(丸山剛司科学技術・学術政策局
長)とする。

 総合科学技術会議は、予算に無駄がないか点検し、有望な研究に重点配備す
る必要性は認める。生命科学、環境、防災など分野ごとに達成すべき「成果目
標」を新たに作る方針だ。「ロケットの成功率を90%に(10年度まで)」
「がんの5年生存率を20%改善(14年度まで)」など、具体的な数字も挙
げる予定だ。

 肝心の予算の数値目標は基本計画に盛り込まれるのか、額はいくらになるか。
松田科学技術担当相らと谷垣財務相との政治折衝で、12月末の本会議までに
決まる。小泉首相は予算の数値目標には言及せず、28日の本会議を「科学技
術は未来への投資。予算も増やすべき数少ない分野。関係大臣でよく折衝して
欲しい」と締めくくった。