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『文部科学教育通信』2005年11月28日号 No.136 教育ななめ読み 83 「人事院勧告」 教育評論家 梨戸 茂史 公務員人気も落ち目と揶揄されているのかもしれない。来年採用予定の農水 省のキャリアには東大卒がいないらしい。例年一二〇人ほど合格する東大も今 年は八〇人台。霞が関では東大=優秀とは限らないという評価が出てきたそう だ。ホリエモンやファンドの村上氏の出身校だし、いまや官僚養成の学校では なくなってきているのだろう。 一方で世間からみても公務員の魅力は薄まってきている。勤務条件の最も大 きな比重を占める給与が下がる傾向にある。国家公務員では夏の「人勧」こと 人事院勧告は月額の給与を〇・三%引き下げ、他方、民間のボーナスの上昇に 対応して期末・勤勉手当は〇・〇五か月分引き上げるとした。月給が下がるの は二年ぶりのことだ。同時に、平成十八年度以降の改革も提案した。すなわち 地方では民間給与の方が低いことから地方勤務の国家公務員の給与を下げ、一 方民間が高い都市部では地域手当を支給し、地域ごとに手取りが異なる体系と する。また若手の係員は引き下げなしで中高年齢層を七%下げて給与カーブを フラットにするなど給与構造の抜本的な改革を行うとした。昭和三二年以来の 約五〇年ぶりの改革だという。郵政改革だけが注目されたが、今度の衆院総選 挙で各政党が掲げた公約であるマニフェストだって厳しいものがある。自民党 は国家公務員の給与・退職手当体系の見直しと定員についても思い切った純減 を実現し、総人件費を大幅に削減するとした。おまけに特殊法人や独立行政法 人などの人件費も国家公務員に準じた削減だという。一方の民主党も公務員の 人件費総額を削るとして、「官」の役割の見直し、国民の理解の得られない諸 手当の廃止、人事計画に基づいた定員削減、給与水準の見直しなどを順次進め、 三年間で国家公務員の人件費総額を二割削減するとした。選挙の結果が自民党 の圧勝だったから公務員の人件費の減と定員の大幅な削減が加速することになっ た。地方でもすでにこの動きが出てきた。北海道庁は給与を一挙に一〇%下げ、 定員も定年退職の後を補充しないことで大幅な削減を進めると発表。深刻さ極 まれりですね。 さて、非公務員化された国立大学法人のみなさんには表向き人勧は適用され ない。かと言って「対岸の火事」ではないのだ。政府の「骨太方針」も特殊法 人や独立行政法人等の人件費には目をつけている。隠れ公務員だと思われてい るのだ。法人化で各大学は自由な運営ができるはずだったけれど、運営費交付 金は税金という名の国民のお金だ。法律上も国に倣って給与を決めざるをえな い仕組みだ。おまけに文系地方大学では来年度の昇給財源すらほとんどなくなっ ているところが出てきているらしい。現状は人勧に準拠せざるを得ない方向に ある。 テレビの黄門さまのおかげか「お役人」を叩くのは誰も文句を言わない。マ スコミを含む世間から喝采を浴びる。しかし、予算を削り人員を減らし給与を 削減することは公務というサービスを低下させることだ。これは国立大学の教 育や事務などのサービスにも言える話。給与を下げても、以前と同じレベルの 人材が集まり同じ水準のサービスをしてくれるとするのは、いわば虫のいい話。 多くの国民はこれに気づいてはいない。しかし「それでもいいのだ」という考 え方もある。できるだけ安い給与で人数も減らし行政サービスの範囲や質が低 下してもかまわないとする考えだ。 「民間でできることは民間に」と言っている間に「官がやるべきことも、も うできない」になってしまう。が、それでいいのでしょうか、この国の教育も 学問も。 |