トップへ戻る  以前の記事は、こちらの更新記事履歴
新首都圏ネットワーク


『北海道新聞』2005年11月27日付

新人医師研修、地方の不人気鮮明に 給与引き上げを旭医大検討


 来春三年目を迎える新人医師必修の卒後臨床研修(初期研修)で、国公立大
の医師確保をめぐる都市と地方の明暗が鮮明になっている。新人医師の都会志
向や待遇が良い一般病院を研修先に選ぶ傾向は衰えず、旭川医大など地方の大
学病院の医師不足は深刻さを増すばかり。道外では病院の存亡をかけ、地元で
の勤務を義務付けた奨学金制度の導入など思い切った対策を打ち出す大学が増
えている。

 「15%だって?」。あまりの数字の低さに、全国の病院関係者に衝撃が走っ
た。

 医師臨床研修マッチング協議会が十月下旬に公表した、来年度の研修先病院
の募集定員に対する新人医師充足率。病院を運営する五十の国公立大のうち、
東北大が定員四十人に対し六人、三重大は定員二十人に対し三人と、わずか1
5%しか新人医師が集まらなかったのだ。

 充足率は各病院の「人気」度を推し量る材料になると同時に、将来にわたっ
て安定的に医師確保ができるか判断する目安にもなる。それが、秋田大26%、
弘前大19・1%など東北各県で軒並み50%を割ったほか、高知大35・1
%、香川大26・2%、徳島大26・1%など四国地方も厳しい状況となった。

 道内三大学では、旭川医大が定員五十六人に対し十六人で充足率28・6%
と最も低かった。同病院の研修医不足の影響は、道立紋別病院に対する常勤医
派遣中止検討などの形で、すでに地域医療に暗い影を投げ掛けている。

 これに対し、東大(定員百四十人)、京大(同百人)、横浜市大(同四十六
人)など都市部の大学病院は充足率100%の人気ぶり。この都会志向に加え、
大学病院より処遇や給与などが良い一般病院を選ぶ新人医師も確実に増えてお
り、地方の大学病院は窮状に拍車が掛かる一方だ。

 道内のある大学病院の教授は「全国の病院関係者が集まる場では、今後十年
で三つか四つの大学病院がつぶれるだろう、との話題でもちきりだ。どこも人
ごととは思えないはず」と明かす。

 危機感の高まりから、道外では「地域枠制度」の導入を検討する大学病院が
相次いでいる。制度は、地元出身の高卒者の推薦入学枠を設けたり、卒業後の
一定期間、地元での病院勤務を義務付ける代わりに奨学金の返還を免除したり
して、医師の「囲い込み」を図る狙いだ。

 文部科学省によると、一九九八年度から道内の高校卒業者を対象に推薦入学
枠(定員百人のうち二十人)を設けている札医大を含め、本年度は七校の国公
立大が採用した。

 来年度は弘前、秋田、三重、鳥取、島根、愛媛、香川、宮崎、鹿児島の九国
立大で導入を検討中だ。このうち、地元病院で六年間の勤務を義務付けた奨学
金制度の創設に取り組む鳥取大は「地域に根ざす医療人を育てるには、時間は
かかってもこの方法しかない」(学務課)という。

 道内でも、旭川医大病院の石川睦男院長が「大学ホームページ(HP)での
PRや、後期研修に参加する新人医師の給与引き上げを検討したい」と話し、
対策に知恵を絞る。

 充足率52・2%の札医大も「過疎地に派遣された若手医師に、診療に関す
る情報をインターネットで配信するなど、地方で働くことの不安を軽減するこ
とで医師確保に努めていきたい」(企画課)としている。