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新首都圏ネットワーク

『東京新聞』2005年11月21日付

大学サバイバル 中国進出が過熱


 「政冷経熱」といわれる日中関係。学問の世界はというと、東大や早稲田大、
慶応大などが相次いで中国に進出し、経済と同じようにホットだ。共同研究の
推進や留学生の獲得が狙いで、二十以上の大学が北京や上海に事務所を開設し
ている。大学は少子化や国立大の独立法人化で厳しい環境に直面しており、十
三億の民を抱え、潜在力を秘めた中国に活路を見いだそうと懸命になっている。
(名古屋社会部・加藤寛太)

 ■先駆け

 中国進出は、二〇〇二年に広島大、立命館大が先鞭(せんべん)をつけ、今
月十一日には名古屋大も上海市に初の海外事務所を開いた。

 名古屋大の上海事務所は、中国の名門大学の一つ上海交通大のキャンパスを
見下ろす高層ビルの一室にある。約百平方メートルの室内に、現地の常駐スタッ
フ姚綺さん(23)の机と、大学を紹介するパンフレットが並ぶ棚、十数人が
会議できるスペースを設けた。

 開設に合わせて、名古屋大の最先端研究を紹介するフォーラムを同市内で開
いたが、四百人を超す学生が集まる盛況。上々の滑り出しに、平野真一・名古
屋大学長は「実力が分かってもらえた」と満足げだった。

 日本学術振興会北京事務所などの調べでは、日本の大学は北京を中心に拠点
を置き、中国の大学と先端分野での共同研究推進や、少子化を補う留学生の獲
得を、活動目的の中心に据えている。

 上海でも熊本大や立命館大などが事務所を開設している。名古屋大と同じビ
ルに事務所がある立命館大の担当者は「三年たって活動も軌道に乗ってきた。
これから名古屋大さんもいろいろ苦労すると思います」と、ライバル心をのぞ
かせた。

 ■独自色

 十月初め、主に北京に事務所を置く日本の大学関係者や公的関係機関の担当
者が集まって、意見交換会を開いた。

 「中国で外国の大学が自由に活動するには、法的な整備が十分とは言えない。
競争相手ではあるが、それぞれ問題や制約を抱えており、共通の土台作りが必
要」(出席者の一人)という認識で一致したという。

 大きなハードルの一つが、法的な正式登記。「登記ができないと電話一本引
くのも、銀行口座を開くのも大変」(同)で、中には、看板は掲げているもの
の、常駐の職員はおらず、電話がないところもある。

 これをクリアしたのが、北京に専任の日本人職員二人を含め、五人を常駐さ
せる東大。登記争いでは、欧米勢さえ抑え、世界の大学に先駆けての登記完了
という。

 中国進出が過熱する中、各大学とも「独自色」を出そうとしている。

 東大は、日本の民間企業が奨学金を出す留学生制度を発足させ、事務所で試
験を行って、東大に送り込む態勢も整えた。「欧米に流れていた優秀な人材を
取り込みたい」(同事務所職員)と意気込んでいる。

 ■歓迎

 早大は、孫会社にあたる現地法人を北京に展開。北京大との間で単位を共通
化して両校の卒業資格が取れる「二重学位」制度を始めている。北京で留学生
活をしている早大生のサポートにもあたっている。

 戦前、上海にあった東亜同文書院を前身とし、中国との関係が深い愛知大は、
中国人民大(北京)、南開大(天津市)と、テレビを通じた双方向システムに
よる講義で、両国の博士号が取得できる二重学位プログラムを実施している。

 中国人民大の林美茂・副教授は「中国は人治主義の傾向が残り、かならずし
も原則通りに物事が運ばない。『ほかもやっているから』ぐらいの気持ちでい
ると、いずれ撤退せざるを得ない大学も出てくるだろう」と予測する。

 それでも、中国側の多くの関係者は、日本の大学を歓迎している。その一人、
復旦大(上海)日本研究センター国際交流室の沈浩主任は「今のような政治環
境だからこそ、教育現場での草の根交流と、中日双方に通じた人材の育成が大
切だ」と力を込めた。

 ■中国に拠点を展開している主な大学。(文部科学省および日本学術振興会
北京事務所の調べなどから)

 【国公立】北海道、東北、東京、東京工業、一橋、名古屋、滋賀、京都、大
阪市、神戸、島根、広島、山口、九州、熊本

 【私立】桜美林、慶応、創価、帝京、早稲田、愛知、同志社、立命館