トップへ戻る  以前の記事は、こちらの更新記事履歴
新首都圏ネットワーク

『毎日新聞』鳥取版 2005年11月21日付

支局長からの手紙:大学の地域貢献 /鳥取


 鳥取大学が中心になって、産官学の交流を進める組織「とっとりネットワー
クシステム(TNS)」が発足しました。地域の産業興しや環境問題の解決な
どに、大学、行政、企業の人材や技術を生かした取り組みが貢献することを期
待したいとも思います。

 各地の地方大学が地域おこしに本気で取り組み始めています。国立大学の独
立法人化が背中を押しているのは間違いないと思いますが、明治や大正時代の
先人が地域の人材育成や殖産興業を目的に建学した前身の専門学校などの理念
を、現代に蘇(よみがえ)らせたとも言えそうです。

 地域との連携の「深さ」で注目されているのが、岩手大学です。研究者が持
つ技術や研究成果の民間への移転や共同研究などを進めている地域連携推進セ
ンターには、岩手県や市町村から派遣された研究員らが在籍し、地域ニーズに
きめ細かく応えているそうです。工学部は、地域の産官学連携を進める組織
「岩手ネットワークシステム(INS)」の事務局も担当。岩手大学の教員を
中心に36の研究会を組織しています。

 INSは「いつも飲んで騒ぐ会」「いつかノーベル賞をさらう会」とも称し、
自由闊達(かったつ)な交流会も大きな特色です。岩手県内の企業経営者や研
究者、行政関係者だけでなく、全国から参加者が集まります。フラットな人間
関係から、新たな事業のアイデアも誕生していくでしょう。

 岩手大学・INSの取り組みが、他地域にも刺激を与え、大阪ではINSを
模した組織「関西ネットワークシステム(KNS)」が2年前に誕生しました。
INSとKNSの合同交流会も開かれています。

 とっとりネットワークシステム(TNS)もINSをお手本にしています。
鳥取大学だけでなく、公設民営方式の鳥取環境大学や鳥取県立短大、鳥取県の
研究機関の研究者や企業、鳥取県産業振興機構なども加わり、共同研究や産官
学連携に取り組むそうです。

 公共事業依存度の高い鳥取県など地方の経済にとって、小泉純一郎政権が進
める「聖域なき構造改革」は、政府から配分される予算の削減に直結します。
地方経済にとって、大学を核にした産官学連携と新産業育成の重要性は、これ
までになく高まっています。岩手の取り組みが、他地域に波及している背景に
は、そんな事情があります。

 岩手大学も鳥取大学も、前身のひとつが明治・大正時代に設立された農業学
校、農林学校です。地元の農家を指導して、地域の経済の振興に貢献した「遺
伝子」が、現代に蘇ってきたようにも感じられます。

 鳥取大学は、教育学部を地域学部に改組し、産業だけでなく文化や芸術も含
めた地域の魅力作りに貢献しようとしています。大学の地域貢献に期待したい
と思います。【鳥取支局長・山口透】