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新首都圏ネットワーク

『産経新聞』2005年11月18日付

国立大ブランド合戦 神戸大学ビーフ、ロゴ入りワイン…独自商品を開発
狙いは学生確保


 大学の校名を冠した「ブランド品」が広まっている。特に国立大学では昨春
の法人化をきっかけに、研究成果などを活用した独自商品の開発、販売に力が
入る。少子化に伴う厳しい生き残り競争の中で、独自性を少しでもPRし、学
生確保につなげたいという大学側の必死の思いが背景にはある。(頼永博朗)

≪最適の霜降り≫

 「神戸大学ビーフ」。日本橋三越本店(東京都中央区)でしか買うことがで
きない希少品だ。四月末に販売を始めたところ、口コミで広まり、一、二カ月
に二、三頭分を入荷するが、たちまち売り切れる人気という。

 商品は、神戸大が農学部の付属農場で研究用に飼育した但馬牛。遺伝子研究
などを通じ、肉が最適の霜降り状態になるよう交配を重ねている。店頭価格は
相場により上下するが、最高級品で百グラム当たり三千−五千円。“収益”の
約九割は、付属農場の飼料や資材費にあてられる。

 同店販売促進部は「トレーサビリティー(生産履歴管理)の面で、大学が作っ
ているという安心感が消費者にあるのではないか」という。農学部助教授の大
山憲二さんは「購入者に配っているはがきで、(味などに関して)厳しい意見
が寄せられることもあるが、研究成果を消費者に直接、評価してもらえるのは
ありがたい」と話す。

 また北海道大学では四月末から、北大のシンボルマークを付けたミルククッ
キー「札幌農学校」を発売している。十月現在、当初見込みを約二千万円上回
る約五千二百万円を売り上げている。札幌市内の菓子メーカーと提携した商品
で、道産ミルクを使い、メーカーは売り上げの一部を大学構内の緑化支援金と
して寄付。北大広報課は「これからも観光地らしい商品を開発したい」という。

≪学問に興味を≫

 東京大学は昨年十一月、泡盛「御酒(うさき)」(七百二十ミリリットル入
り四千二百円)を発売し、この一年間で約九千本を売った。東大の研究所で発
見された、太平洋戦争末期の沖縄戦で焼失したとされていた原料の黒麹(こう
じ)菌を使い、沖縄県の酒造メーカーが復活させた泡盛に、東大ブランドを示
す「U」と「T」を組み合わせた新しいマークを入れた。

 また、光触媒の技術を応用した防臭シートや、もみがらを再生させたコース
ターなども開発。いずれも、本郷キャンパスの赤門脇に昨年十一月、開設した
東大コミュニケーションセンターで販売しており、取り扱う商品は約七十種類
に上る。大学側は「情報発信が目的。今後も学問に興味を持ってもらえる商品
化をしたい」という。

 酒といえば、山梨大学のロゴがラベルに入ったワインも十月にお目見えした。
山梨県内のワインメーカー四社と共同開発した山梨大初のブランド品。売り上
げの3%がロゴ使用料として大学側に還元される。山梨大には国内唯一の総合
的なワイン研究機関があり、ブドウ品種の改良や酵母の開発などの技術が商品
に生かされている。

≪教育的効果も≫

 ブランド合戦に新たに参入する大学もある。信州大学は十二月から、農学部
に付属する長野県南箕輪村の農場で研究栽培したヤマブドウを100%使い、
県内のワインメーカーで醸造した独自ワインを発売する。

 従来、大学生協が販売していた商品と中身は同じだが、価格を割安に設定。
また、公募したラベルデザインの選考を進めている。今後は、米やそばなどの
農産物にも独自ブランドを広めていく方針だ。農学部助教授の春日重光さんは
「どういう農産物を作れば買ってもらえるか、学生が肌で感じられるので、教
育的な効果も高い」と話す。

 文部科学省国立大学法人支援課では「研究成果を社会に提供する試みは歓迎
できる。こうした取り組みは今後も増えていくだろう」としている。