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新首都圏ネットワーク

『文部科学教育通信』2005年10月24日号 No.134

教育ななめ読み 81 「慣れないこと」
教育評論家 梨戸 茂史


 八月下旬のことだが文部科学省は法人化した国立大学などの決算を発表した。
早速(というか公表前に)報道したのは経済が得意な日経新聞。一面に取り上
げ刺激的な「国立八九大学 黒字一、一〇〇億円」の見出し。これを聞いた
(聞かされた?)私学関係者が「国立大はそんなにもうかっているのか!」と
反発し、学内では「本部は予算がないと言っていたくせに」と驚いたそうだ。
(このパターンは教科書問題と似てますね。よせばいいのに隣の国にご注進し
て、こんな記述になってますよと言いつける方式)

 ところがこれはどうやら嘘というか誤解のようだ。そもそもこの決算は法人
化が始まった平成十六年度のもの。それまでは「国立」大学だから全体一括し
て予算と決算は公表されてきたけれど個々の大学ごとの収支は不明だった。今
回はそれぞれが独立の「法人」だし企業会計でやるというから大変。いままで
は官庁会計の現金主義で、早い話「子どもの小遣い帳」方式。入ったお金を一
定期間(一年間)に使うだけ。余ったら、親が「返してね」と言うから無駄で
もお菓子を買って食べてしまったというぐらいなやり方。単純に出入りを書い
ておけば済んだのだ。ところが今度は企業会計の「発生主義」方式。元国家公
務員にしてみると大転換の帳簿でしょう。要すれば会計基準が異なる。まして
や法人化への移行期での訳の分からない要素が入っている。つまり旧国立大学
時代の授業料の取りはぐれや病院収入でまだもらていない分が「債権」だから
「収入」に記載された。また医薬品などの物品も会計ルールの変更で在庫相当
として「収益」で記載。おまけに国から引き継いだ診療関係の機器などの減価
償却費の相当額も経理上の扱いなんでしょうか「収益」になった。付属病院の
借入金も減価償却費との差が時間差の関係で「収益」だそうだから、素人には
訳が分からない。……と言うことで、最終結果は五三億円しかプラスはなかっ
た、と言うのが文部科学省のお答え。それにしても法人化初年度のお金の使い
方としては従来のような年度を越えてからの出納(会計)整理の時間がなくなっ
て、支払いの遅れたお金や慎重になりすぎて余ってしまったお金がこの数字に
は入っていそうだ。そもそも旧国立大学時代から引き継いだ債権などはこの移
行の時期だけの問題。さすれば来年度からはこのような大きな数字は出てこな
いはず。一部減価償却関係はそれが終わるまで金額は変わりながらも継続され
るそうだが。来年度以降、もう少し実態感覚に近い数字になってくるのでしょ
うか。

 私学関係者は、この数字だけを見れば「私立大は長い年月をかけ、爪に火を
ともして今の資産を築いてきた。国立大学はなんの苦労もせずに九兆円の総資
産を国から引継ぎ、毎年巨額の運営費交付金が入る。これでは国立と私立が、
公平に競争ができるわけがない」(日経新聞八月三十一日付)とも言いたくな
る。私学は学生の七三・七%を受け入れているにもかかわらず(誰か頼んだの
かな?)、国からもらう経常費補助金は国立大学の約二割ほどの三、二六三億
円だそうだ。

 でも、理系に比重があり、研究志向でお金のかかる国立との単純な比較は危
ない。

 私学にとってのも真の「敵」は国立大ではないはず。国立だって毎年一%の
「効率化係数」という名で減額されていく運営費交付金だ。何年でゼロに到達
するのか、まあ、百年はかからないはず。

 慣れない企業会計方式に目をパチクリしている間に本当のところが見えなく
なって先進国一低い高等教育予算がさらに減っていく図はどうにかならないか。