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新首都圏ネットワーク

『読売新聞』2005年11月12日付

[解説]科学技術予算削減


 右肩上がりを続けてきた科学技術予算に赤信号がついた。来年度からの第3
期科学技術基本計画の議論でも、どこを“節約”するかが焦点だ。(解説部
知野恵子)

 ◆大学運営費にも議論が飛び火 

 「科学技術予算は増えているのに、国民の科学技術への関心は薄れている。
さらにつぎ込んでいくことをどう考えるべきか」。総合科学技術会議(議長・
小泉首相)の第3期計画の方針を議論する専門調査会で、財務省から厳しい指
摘がなされた。

 1995年の「科学技術基本法」の制定以来、科学技術予算は拡大したが、
投資効果を疑問視する声も目立ち始めている。6月に財政制度審議会が来年度
予算で、これまで特別扱いだった科学技術振興費も削減対象に入れる方針を示
したことも、削減議論に弾みをつけた。

 そもそも予算減少の兆候は見られた。96年から5年間の第1期計画では目
標を1兆円上回る約18兆円が投入されたが、第2期では、目標額の24兆円
を約3兆円下回った。

 第3期方針を見ると、カネのかかることが目白押しだ。2期で定めた重点4
分野を引き継ぐのをはじめ、「推進4分野」「戦略重点科学技術」などが掲げ
られており、どれが最も重要なのかわかりにくい。何かを削って金を回さない
限り、実現は不可能だ。節約候補と目されているのが、国立大学や独立行政法
人へ、国が基盤経費として分配している「運営費交付金」だ。この中には、教
育や研究などの費用も含まれている。

 ただ、研究費には、研究者が、応募・審査を受けて獲得する「競争的研究資
金」もあり、国はこの制度を拡充している。このため、3期では「大学の基盤
資金と競争資金の有効な組み合わせを検討」との表現で、運営費交付金見直し
の可能性を示唆している。小泉首相が「独立行政法人、国立大の改革を徹底的
に進めてほしい」と発言したことも、見直しへ拍車をかけそうだ。

 問題は、大学が科学技術研究の場だけではないことだ。基盤経費は毎年削減
されることになっているうえ、競争資金を獲得しにくい分野もある。3期の議
論でも委員から「教育も担っている。また、人文社会分野なども科学技術予算
に組み込んで一律に論じるのは疑問」との指摘が出た。

 総合科学技術会議では、科学技術振興策を検討する。そこで国立大のあり方、
学術全般まで議論するのがふさわしいかという問題もある。同会議は「人文系
などもここでの議論の対象」としているが、「そういう前提はない」と反論す
る委員もいる。

 科学技術だけが、日本の将来を支える訳ではない。国立大や学術研究を含め
た幅広い検討を必要とするのなら、科学技術分野が多い現在の委員構成では、
視点や議論の深まりに限界がある。