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新首都圏ネットワーク

『日本経済新聞』関西版 2005年11月14日付

事務職員、経営・管理能力磨く──変革担う運営のプロに


 大学事務職員に高度な管理運営能力をつけてもらおうとの取り組みが関西の
大学で広がっている。手探りながら研修プログラム実施や、養成専門の大学院
を設立するなどの動きもある。淘汰の時代といわれ、急速な変革が迫られてい
る大学運営について、教員が研究活動と並行して行うのには限界も見える。各
分野のスペシャリストを育成しようとの認識が共有されつつあるようだ。

●教員頼みは限界

 11月5日、京都市下京区の「キャンパスプラザ京都」。産官学共同体の財団法
人、大学コンソーシアム京都による大学アドミニストレーターの研修に、京阪
神の大学から事務職員が次々に集まってきた。

 この日のテーマは「大学の地域貢献と大学改革」。講師の河村能夫・龍谷大
教授は「龍谷の教員がどんな研究をしていて、それが地域にどんな役に立つの
か、発信する方法に頭を悩ませていた」と、エクステンションセンター設立を
例に挙げて講義を進めた。地元企業向けの研究施設貸し出しなど、取り組みの
成功・失敗例を併せて紹介すると、受講生たちは熱心にペンを走らせた。

 管理者などを意味する「アドミニストレーター」を掲げた研修をコンソーシ
アムが始めたのは昨年から。「厳しい環境に置かれている大学の運営は、数年
単位で交代する教員では限界がある。長期的に大学運営を見ることができる職
員の力が問われている」と清水邦子事務局次長は研修の意義を説明する。

 参加動機は様々。京都大の加藤正明さんは「国立大は教員が運営の大半を担っ
てきたが、これからは職員がもっと力を付けて教員と一体になって運営に携わっ
ていかないと」と話す。京都文教大の野々山功一さんは、大学からの指名で参
加。民間企業から転職した野々山さんは「企業で学んだサービスを教育の現場
で使いたいと思っていたのでヒントをつかみたい」と話す。

 今年からは京都以外の大学にも門戸を開き、計23人が参加。全15回の研修は
毎回ゼミナール形式で、欧米の大学との比較や大学評価、大学経営論などを、
大学教授らによる講義と討論で進めていく。

 コンソーシアムの特長が生かされるのは討論。受講生による自らの大学の事
例発表を行うため「人材流動の少ない事務職員が一堂に会することで、シナジー
(相乗)効果が大きい」とコンソーシアムのアカデミックアドバイザーも務め
る河村教授。受講生の間でも「ほかの大学の取り組みが分かるし、情報交換も
できる」(流通科学大職員の大野康人さん)と好評だ。

●大学院設置の動き

 職員に管理運営能力を付けるための取り組みでは、桜美林大、東京大など首
都圏では大学院を設置する動きに発展しつつある。関西でも立命館大が今年4月、
「大学行政研究・研修センター」を設立、現役職員を対象にした研修プログラ
ムを始めた。他の大学から聴講生を受け入れ、3年後の大学院設置を目指す。

 立命館大の特色は「政策立案演習」。職員がそれぞれの職場での経験を基に
研究テーマを設定、解決策を立案する。「学生が伸びる課外活動の仕組みを明
らかにしたい」「学生の授業満足度を基にシラバス(講義計画書)改善の提言
をしたい」など、従来なら教員の領域だった教育分野に踏み込んだテーマが目
立つ。「画期的なことだが、教員の目が届かないところで職員が問題意識を持
ち、提言する意味は大きい」と近森節子専任研究員。

 講義中心の既存の養成手法とは一線を画す実践的な内容を「理論先行では頭
でっかちになり、状況の変化について行けない。課題を発見するには現場の体
験を基にしないと」と伊藤昇副センター長は強調する。

●経営感覚鍛える

 「管理運営ができる大学職員」の具体像は、まだ定まっていない。コンソー
シアム京都は大学アドミニストレーターの定義を「トップの意思決定をサポー
トする人材」としているのに対し、立命館大は「教育・研究・管理運営を担う
高い専門性を持ったプロフェッショナル」と位置づける。

 だが、経費節減を迫られ、証明書の発行などの単純作業の外部委託や自動化
が進み専任職員の能力向上が求められている。京都産業大は2002年から40歳以
下の職員を京産大大学院のマネジメント研究科に派遣する研修制度を行ってい
る。「教員と対等に議論する知識と経験を持つためにも、修士は必要」と吉門
敬司人事担当課長は話す。

 また、梅花女子大学は今年から、コンサルティング会社に委託して管理者向
けの研修を始めた。「今までの“事務専門”といった発想を改め、経営感覚を
身につけたい」と狙いを話す。

 (大阪社会部 吉田直子)

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