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新首都圏ネットワーク

『読売新聞』2005年11月13日付

金融機関が産学連携
地盤拡大、地域活性化へ


 地方銀行や信用金庫などの地域金融機関が、産学連携の取り組みを強化して
いる。学生ベンチャーを支援したり、中小企業と大学の橋渡しをしたりするこ
とで、営業地盤の拡大や地域活性化を狙っている。金融庁が地域密着型金融
(リレーションシップバンキング)の機能強化を迫り、メニューの一つとして
産学連携が注目されたことも、ブームの一因となっているようだ。

(戸田博子)

 大阪市信用金庫は7月、大阪市立大学の学生ベンチャー、シュレテック研究
所(本社・大阪市、資本金450万円)に、無担保で600万円を融資した。
市信金にとって初めての学生ベンチャーへの融資だった。

 シュレテックは、大阪市大内のインキュベーター施設などを使い、メーカー
から受託した医薬品原料の研究などを手がけている。大学院生ら約100人を
登録社員とし、研究の合間のアルバイトで学費を稼ぐ形態をとっており、受託
価格を競合他社の10分の1程度に抑えられるのが強みだ。

 ただ、大学院生の吉原紳悟社長(24)ら創業者3人が、預貯金など350
万円を出し合って3月にスタートしたばかりで、資金は不足している。市信金
からの融資は、より高度な分析のための設備投資や運転資金に充てた。

 市信金は大阪市大と産学連携協定を結んでおり、大学からシュレテックを紹
介された。信金単独で成長企業を見分けるのがまだ難しいこともあり、大阪市
の創業支援保証制度を活用してリスクを低減した。

 金融機関は長らく、融資の際に「担保と資金繰り」で企業を判断してきた。
これでは、有望な技術を持つベンチャー企業であっても融資は難しい。市信金
は、中小企業診断士を講師に迎え、成長企業を見分ける「目利き講座」を開く
など、職員の能力アップに努めているが、技術分野は変化が激しいこともあり、
「大学との連携がますます重要になる」(市信金産学連携センター)とみてい
る。

中小企業と大学橋渡し

 地元の中小企業と大学の橋渡しをし、新事業の創出や技術革新を支援するた
め、大阪信用金庫は03年に「だいしん産学連携共創機構」を設立した。職員
の兵庫恵二さんが産学連携コーディネーターとして大阪府立大学に常駐してい
る。これまでに、大学の産学連携コーディネーターとともに315社を訪問し、
技術相談59件、共同研究など12件といった実績を上げている。

 中小企業からの相談は「光触媒の基礎的なデータをとりたい」「機能性食品
の塩昆布を作りたい」など多岐にわたる。2年余りで2000枚の名刺を交換
したという兵庫さんは「中小企業の8割は大学の敷居が高いと感じるようだが、
私が一緒に行くことで相談しやすくなる」と強調する。

 池田銀行は2004年、「“コンソーシアム研究開発”助成金」制度を創設
した。中小企業が事業の多角化などをする際、産学連携に必要な研究開発費用
として1社あたり最高300万円を助成している。04年はバイオやITなど
の分野で18社を選び、計約3000万円を支給した。

 金融庁は、3月に公表した「地域密着型金融の機能強化の推進に関するアク
ションプログラム」で、各地域金融機関に推進計画を8月末までに策定するよ
うに求めた。これにより、様々な産学連携の取り組みが一層進んだ。大学側も
「独立行政法人化などで、独自に細かく稼ぐ意識が強まっている」(大阪市信
金)。産学連携の可能性はさらに広がりそうだ。


経済部から

 閉鎖的な体質で「象牙(ぞうげ)の塔」と呼ばれた時代もある大学ですが、
最近の産学連携への力の入れようには、目を見張るものがあります。このペー
ジで4月から始めた企画「研究室から」は、取材対象の発掘に苦労するのでは
との懸念もありましたが、取り越し苦労でした。多くの大学が産学連携の窓口
を持っており、ここに相談すれば、企業が興味を持ちそうな研究テーマを紹介
してくれました。ただ、窓口の実力は、大学によって差があります。取材に迅
速かつ的確に応じてくれる大学ほど、企業側の評価も高いようです。(上)