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新首都圏ネットワーク

『内外教育』2005年11月4日付

《財務諸表の読み方》

            国立大学財務・経営センター研究部長  天野郁夫


 先ごろ国立大学の法人化1年目の財務諸表が公表され、新聞等で大きく取り
上げられた。中でも、ある新聞が、国立大学全体で純利益が1100億円を超
えると書いて話題になった。この種の資料の読み方のプロである経済紙の記者
の書いた記事である。やっぱり、まさか、とんでもない等、読者はさまざまな
受け止め方をしたことだろう。

 その後、文部科学省がそれは財務諸表の読み方の違いで、実質の黒字は50
数億円にすぎないことを、るる説明してひとまず一件落着となったが、大きな
食い違いに、割り切れない思いで記事を読んだ読者も、少なくなかったに違い
ない。

 国立大学法人の会計基準は、企業会計原則に立つものとされるが、企業会計
とも学校法人会計とも大きく違っている。大体「利益」という考え方自体が、
企業の場合と同じではあり得ない。その点の理解の違いが、今回のような事態
の主要な原因だろうが、それにしてもこの財務諸表は、それを作成している国
立大学関係者にとっても、読み方が難しい。

 財務諸表を作ることの、個別の国立大学法人にとっての意味は、何よりも大
学経営の実態を的確に把握し、1年問の実績を反省的に見直し、次年度以降の
財務経営の改善に役立てることにあるはずだ。しかし、今のままではとても、
その役には立ちそうにない。大学内外の関係者にもっと理解しやすいものに改
善するか、さもなければその読み方や活用の仕方を十分に検討し、少なくとも
関係者に周知徹底する必要があるだろう。

 国家財政の逼迫(ひっぱく)がいわれる中、1兆数千億円の国費の投入にあ
ずかる国立大学法人に対して、社会の目は厳しさを増す一方である。法人化に
よって国立大学の経営の改善や、財務の効率化がどこまで行われるのか。社会
的に強い関心が向けられている今、財務諸表の「正しい」読み方や活用の仕方
の提示に、文科省も国立大学関係者も、もっと関心を払ってしかるべきではな
いか。