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新首都圏ネットワーク

『東奥日報』2005年11月4日付

弘大生の医師研修で大学離れ進む


 来春卒業予定の医学生と医師研修指定病院のマッチング(組み合わせ)で、
弘前大学医学部付属病院は定員四十七人に対し九人しか合致せず、大学関係者
を落胆させた。年々進む「大学離れ」の背景に何があるのか。今回、市中病院
を研修先に選んだ弘大生は「大学病院では風邪や腹痛を診療できない」「いず
れ大学に戻るが、外の病院も見てみたい」とその理由を語る。都会志向、待遇、
研修プログラムの違いなど、複合的な要因が大学離れに見え隠れする。

 マッチングは新人医師の臨床研修義務化に合わせて始まり、今回が三回目。
医学生は研修したい病院を、病院は採用したい人材を登録し、コンピューター
で合致させる。その結果、弘大病院は過去最少の九人となり、定員に対する充
足率約19%は全国百五カ所の大学病院のうちワースト4の低さを記録した。

 今回マッチングに参加した弘大生の多くが県内外の市中病院に流れた。県外
病院での研修を決めた本県出身学生は「大学病院は専門性が高く、風邪や盲腸
など基本的な症例を診療できない。給与など待遇面も市中病院がよい」と理由
を挙げ、別の学生は「指導医の熱心さやプログラム内容で決めた。いずれは大
学に戻るつもりだが、外の病院でひとまず経験を積みたい」と、“武者修行”
の理由を語った。

 さらに、都市部の病院を選んだ学生は「学会は都市部で開催することが多く、
地方から出席するのは大変だ」と話した。また「大学は診療科間の壁をなくす
べき」「救命救急体制をもっと充実して」など、大学への注文もあった。

 弘大医学部卒後臨床研修センター長の加藤博之教授は「大学離れは東北や中
国、九州など各地の地方大学で起きている。大学病院でも基本的な症例を学ぶ
機会があることを訴えてきたが、学生には伝わらなかったのかもしれない」と
語り、学生の学務を担当する泉井亮教授は「このまま大学離れが続くと、大学
病院の人材不足につながるだろう。今後、大学の持つ研究機能や高度な医療レ
ベルなど、大学の魅力を発信することが必要だ」と力を込めた。

 厚生労働省医政局は全国的に進む大学病院離れの原因を「待遇もあるが、診
療科間に壁があって充実した研修ができないケースもある。症例に接する機会
が多い市中病院を選ぶ傾向は今後も続くだろう」と分析している。