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新首都圏ネットワーク

『朝日新聞』2005年10月30日付

国立大推薦入試で「地元枠」導入拡大 来年度は12大学


 国立大学で推薦入試に「地元枠」を設ける動きが広がっている。これまでの
4大学から、06年度入試では一気に12大学が導入する。すべて教師や医師
を養成する教育学部と医学部だ。背景には、急速に進む大都市近郊の教員や、
過疎地を中心とする医師の不足がある。これまで受験機会の平等という原則を
守りに事実上、実現しなかったが、法人化で地域重視の方針も実現しやすくな
り、導入が加速した。

 04年度の法人化で、国立大学は人事や予算の面で独自性を発揮しやすくな
り、地域密着の方針を打ち出したり、特定の研究分野に力を入れたりしはじめ
ている。それに伴い、全体の定員の枠は広がらないものの、大学の考えで定員
の一部を地元枠に充てやすくなったという。

 教員養成課程で06年度に地元枠を設けるのは、京都教育、奈良教育、横浜
国立の3大学。それぞれ10人程度を募集する。いずれも「卒業後は地元の教
員となる意欲を持つ者」が出願の要件。それぞれ、奈良教育と横浜国立は県内
出身者、京都教育は過疎化が進む府北部の出身者だけが受験できる。

 教員養成課程で最初に導入したのは、滋賀大教育学部で、05年度から。1
0人の募集に対し、大学の予想を上回る55人の応募があった。今年は16人
を募集する。

 4大学に共通するのは、大都市の近くにある点だ。交通の便がよく、地元以
外から通学しやすいため、県外出身者の割合が高い。滋賀大教育学部は約半数、
横浜国立大教育人間科学部は8割が県外出身者だ。

 さらに、4大学では、地元以外の学生の多くは、出身地に戻って教員になる
傾向が強い。それなのに、4府県では今後、人口が急増した高度成長期に大量
採用された教員が一斉に定年を迎える。たとえば、滋賀県では今後10年間に、
小中高あわせて約1万1000人いる教員の2割強に当たる約2400人が定
年を迎える見込みだ。地元へ定着する卒業生を増やさなければ教員が不足する
という不安を抱えている。

 滋賀大入試課の担当者は「国立大としては、すべての人に平等に門戸を開く
のが原則。しかし、教育学部には地元に教師を供給する役目もある。理解は得
られるはず」と話す。

 国立大で先に地元枠を設けたのは医学部だ。中でも学生の地元への定着が悪
かった滋賀医大が法人化前に、目立たない形で98年度に先行した。05年度
は信州大と佐賀大が導入、06年度は秋田大や三重大、鹿児島大など9大学が
新たに導入し、計12大学で実施される。

 「県内では、お産ができない、麻酔医がいなくて手術ができない、といった
話が珍しくない」と話すのは、秋田大の飯島俊彦医学部長。同大では、95人
の定員のうち5人を地元枠とする。

 同大の医学科で8割弱を占める県外出身者が、県内の医療機関に就職するの
は3割程度。深刻化する医師不足対策の切り札として、7割が地元に就職する
県内出身者に対する期待は大きい。

 飯島学部長は「医師不足がどんなに深刻でも地元のために動きにくい状態だっ
たが、法人化で積極的になれた」と話した。