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新首都圏ネットワーク

『日本海新聞』2005年10月25日付

鳥大医学部「地域枠」創設
背景に深刻な医師不足


 県内の地域医療を担う医師を育成するため、鳥取大学は二〇〇六年度入試か
ら医学部医学科(七十五人)の推薦に県内出身者を対象とする「地域枠」(五
人)を設ける。慢性的な県内の医師不足に加え、県内入学者の減少傾向と卒後
臨床研修の必修化による新人医師の県外流出が追い打ちをかける現状を打破し、
医師不足の解消を図るのが目的。成果が表れるのは八年後だが、果たして人材
確保の決定打となるか。52人も足らない

 県内病院では医師不足が恒常化している。県医務薬事課によると、〇四年度
は四十六病院のうち九病院が医師法上の定数を満たしていない。自治体病院を
中心に医師派遣を同大医学部に要請したが、定数に対して五十二人が不足した
という。

 医学部側も医師不足を承知しているが、台所事情が許さない。〇四年度から
必修化された臨床研修制度と同学部への県内入学者の減少が阻害要因となって
いるからだ。

 同制度では、全国的に地方ではなく出身地や都市部の病院を研修先に選ぶ例
が多い。鳥大医学部では〇四年度は定数四十三人に対して三十六人を確保した
が、〇五年度は五十人に対し二十五人と減少。同じ定員に対する〇六年度の希
望者に至っては現在、わずか十四人にとどまっている。

 同学部卒後臨床研修センターの副センター長で新人医師の研修を担当する荻
野和秀助教授は「都会へのあこがれや大学病院は臨床例が少ないという誤った
認識が、都市部への集中につながっている」と分析。「しかも一度県外に出て
しまうと、その病院の系列の大学に組み込まれ、帰ってこない例も多い」と先
行きに懸念を示す。

 同制度が鳥大病院の存続そのものにも影を落としている段階で、県内の他の
病院に新人医師や中堅医師を派遣するのは年々難しくなっており、それが県内
の医師不足を深刻化させる。県内を研修地に選ぶ確率が高い県内入学者の増加
が特効薬だが、毎年二十人を超えていた県内からの入学者も、ここ五年は十人
台で推移している。先進地では苦戦

 全国で医師不足の解消が行き詰まる中、解決策として地域枠制度を設ける動
きが地方国立大学で相次いでいる。文科省によると、〇六年度から創設するの
は鳥取大など八大学に上り、全国では計十一大学となる。

 このうち滋賀医科大(大津市)は一九九八年度に全国で最も早く枠を設けた。
京都、大阪からの入学者が多く、卒業生の県外流出に悩まされていたのが理由
だ。

 しかし、七人の地域枠に対し、地元で研修を続けているのは昨年、今年と四
人だけ。医学生を対象に地元勤務を義務付けた奨学金制度を設ける自治体も増
えているが、義務年限を果たす前に返納し、都会地に流出するケースも多いと
いう。

 鳥取大学医学部が二十四日に米子市で開催した地域枠の説明会には、県内高
校から進路指導担当者ら十一人が出席した。大学側は「国内での研修や外国留
学を積極的に進めたい」とスキルアップを目指す若手医師にも有用な制度であ
ることをアピールしたが、米子東高の担当者は「生徒、保護者の関心は、まず
は入学すること。将来どういう形で医療に携わるのか、イメージはできてない
だろう」と指摘した。

 枠創設の意図は生徒たちに浸透しておらず、周知に向け一層の努力が不可欠
なのが現状だ。