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新首都圏ネットワーク

『北海道新聞』2005年10月20日付

学内カメラの是非で対立 公立はこだて未来大、「研究目的」と大学側


 【函館】公立はこだて未来大学(中島秀之学長)が今春、研究棟内に取り付
けた30台のカメラをめぐって、大学側と設置に反対する教授や学生が対立し
ている。大学側は「人間の行動記録を解析する研究のためで、監視用ではない」
と理解を求めているのに対し、反対派は「事前説明がなく、プライバシー侵害
の懸念もある」と主張。約1600万円の公費をつぎ込んだカメラや専用サー
バーなどは6月上旬以降、稼働を止めている。

 カメラが設置されているのは、四月に利用を始めた研究棟内の、二カ所の共
同実験スペース。広さはそれぞれ約二百平方メートルと約百平方メートルで、
四年生や大学院生、教授らが利用している。

 広い方には、角度を変えられ、ズーム機能も備えた固定カメラが壁面に十六
台、全方位を同時に写せるカメラが四台設置された。狭い方は固定カメラ八台
と全方位カメラ二台。IDカードを持った学生らの入室などを感知する受信機
も、二カ所で計六台設置された。

 大学側によると、カメラは、人間のオフィス内での長時間の行動を記録・分
析する「ユビキタス」実験のためという。映像には担当教授らが専用サーバー
を介してアクセスでき、映像の保存期間は二日間としている。

 しかし研究棟利用開始からまもなく、教授の一人が「カメラ設置には大学全
構成員の合意が必要」と指摘し、大学側に設置目的や設置管理者、設置費用の
情報開示を求めるとともに、全学説明会の開催を要求した。また四月下旬から
は、教授の意見に賛同する人々の署名活動が始まり、学生ら百人以上が署名し
た。

 このため大学側は五月に説明会を開いたが、技術面の説明だけで運用規則に
ついて明確な回答がなく、問題は紛糾。大学側は六月上旬、研究棟内のカメラ
の電源切断などの措置をした。

 カメラ設置を大学側が決めたのは昨年夏だが、当時は学内への事前説明や運
用規則策定などは検討しておらず、人を使った実験などの際に開かれる学内の
「人権・実験倫理委員会」にも諮らなかった。

 ユビキタス実験の担当教授は「目的は人間の行動追跡で、映像もIDカード
を持って入室した人間が中心。人の動きの軌跡だけが残るよう画像処理もされ
るから、プライバシー問題は生じないと思っていた」と話す。

 今月中旬の二回目の説明会で、大学側は「撮影される可能性があるすべての
学生、教職員の同意を得るような運用規則をつくる」としたが、「設置の事実
ありきで議論が進んでいる。研究の名を借りて、無神経なルール違反がまかり
通っている」との指摘もある。

 中島学長は「カメラを設置したユビキタス実験の例は米国では少なくないか
ら、反対を予測していなかった。見られる側への配慮が欠けていた。カメラの
再稼働を強行する気はない」としている。

 ユビキタス  「あらゆるところにある」という意味のラテン語。ユビキタス
社会とは、場所を問わず、空気のようにコンピューターのサービスを受けられ
る状況を指す。将来のサービス例としては、コンピューターが人間の起床を感
知して自動的に音楽などを流し、疲労気味の人にはベッドに設置したセンサー
が心拍数、呼吸数などのデータを自動計測する仕組みなどがある。