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nikkeibp.jp 2005年10月20日付 産学連携のススメ 第11回〜大学から産まれる“知”の活用で地域振興を 北海道大学の創成科学共同研究機構は、平成15年度(2003年度)に文部科学 省科学技術振興調整費の戦略的研究拠点育成プログラムの対象組織に選ばれ、 大学の組織改革を進めている。同プログラムは通称“スーパーCOE(センター・ オブ・エクセレンス)”と呼ばれ、国際的に卓越した研究拠点・人材育成拠点 をつくる大学の組織改革の実行を求めている。北大が目指す大学組織改革の目 標を、創成科学機構は地域振興に置く。創成科学機構長を務める長田義仁副学 長に、北大が目指す大学組織改革について聞いた。(聞き手は丸山 正明=産学 連携事務局編集委員) Q:北大の戦略的研究拠点育成プログラムの目標は北海道の地域振興ですか。 A:文科省の科学技術振興調整費の戦略的研究拠点育成プログラムに応募し た際の提案内容に「北大リサーチ&ビジネスパーク構想」を掲げました。大学 が産み出す知を基に、地域企業の事業化を支援する構想です。大学から産まれ た研究成果の“知”を、社会に還元するのが“知の活用”であり、地域の企業 の新規事業起こしにつなげたいと考えています。 北海道は残念ながら経済不振にあえいでいます。このため、北大は北海道の 地域性を生かした研究開発プロジェクトを進め、地元企業の事業化を支援した いと考えています。この点は、日本の有力研究大学の中でも、北大特有の使命 と感じています。 Q:具体的には。 A:平成16年(2004年)7月30日に北大と北海道庁、札幌市、北海道経済連合 会、北海道経済産業局(経済産業省)の5者は地域連携協定を提携し、産学官連 携で地域振興を図る具体策を練り始めました。大学と地域行政(都道府県)、 市町村、地元経済界、省庁が地域連携協定を結ぶのは初めてです。ここに北大 の地域性が表れており、その具体策が「北大リサーチ&ビジネスパーク(R&BP) 構想」です。創成科学機構はその司令塔役を担います。 平成17年(2005年)4月には北大R&BP産学官連携事業推進室を創成科学機構内 に設置し、北海道庁、北海道経済連合会、北大からそれぞれ担当者を出して地 域の活性化プランを企画してもらっています。将来、研究開発支援型法人の 「産学官連携企業推進体」を設立する計画です。 Q:大学の組織改革を進めるには何が必要ですか。 A:トップダウン型のマネジメントの導入です。これまでの大学・大学院は 個々の学部・研究科(部局)・研究所の教員がそれぞれ自己責任で研究テーマ を選んで研究してきました。 これに対して、国際的に優れた研究拠点を築くには、時代の要請に応じた学 問・教育分野を開拓する必要があります。学問分野を複合・融合させるには、 横断型すなわちプロジェクト型の研究組織を築くことが不可欠になります。こ のためには、トップダウン型マネジメントによる横断型の研究プロジェクトの 創設する戦略・戦術が必要になります。 この横断型のプロジェクトを築く目的で、その司令塔機関として創成科学機 構を平成14年度(2002年度)に設けました。 Q:創成科学機構の特徴は。 A:どの学部・学科にも属さない部局横断的な研究組織である点と、研究戦 略・戦術を考える戦略スタッフなどがいる研究企画室を設けた点です。さらに、 所属する研究員は5年〜7年程度の任期付き採用という人事制度・組織とし、外 部の人材を積極的に登用しています。プロジェクト型のオープンな研究組織と しては当たり前のことを実行しているのですが、従来の大学からみれば革新的 なことになります。 この特徴を基に、北大の得意分野を生かして部局横断的な戦略重点プロジェ クトとして「人獣共通感染症の診断・治療法の開発」「移植医療・組織工学」 「食の安全・安定供給」「環境・科学技術政策」の四つを設け、実践していま す(表を参照)。戦略重点プロジェクトは教員やポストドクター、技術補佐員 で構成する10数人のチームで学際・融合分野を研究開発しています。現時点で、 四つのプロジェクトに合計54人が参加しています。 また、流動研究部門と特定研究部門という仕組みを設けて特徴を生かす工夫 をしています。流動研究部門は北大の若手研究者を育成することが目的です。 助手や助教授という若手研究者から研究テーマを公募し、合格すると専用の研 究室と研究資金が提供されます。独創的な研究を定めた期間内で実施し、研究 成果を上げてもらいます。 特定研究部門は国際的に知られた優秀な研究者を北大外部から招へいし、研 究のプロジェクトリーダーとして研究をプロデュースしてもらう制度です。現 在、「計算科学」「生体材料」の二つを推進しています。 Q:地域振興へのつがなりはどのように。 A:「人獣共通感染症の診断・治療法の開発」プロジェクトは、インフルエ ンザウイルスなどの人獣共通感染症のウイルスを高感度で簡単に検出するバイ オセンサーを開発中です。カーボンナノチューブを利用するバイオセンサーチッ プを北海道の企業で事業化し、地域振興を図る計画を進めています。 また、「移植医療・組織工学」プロジェクトはサケの皮のコラーゲンから再 生医療用の繊維ゲルを開発し、井原水産(北海道留萌市)に技術移転するなど の研究成果を上げています。同社は細胞用培養ゲルとして2004年から事業化し ました。 「食の安全・安定供給」プロジェクトは農業・水産が盛んな北海道らしい研 究成果を上げると一番期待され、地域振興に貢献すると思います。環境低負荷 型の農業システムや機能性食品の開発を目指しています。 Q:戦略スタッフがいる研究企画室の役割は。 A:創成科学機構が研究開発を戦略的に推進する企画調査を担当し支援しま す。戦略スタッフは大学から産まれた研究成果を事業化するためのビジネスモ デルや特許マップの作成を担当し、知の活用による事業化を企画します。企業 と北大との包括的な組織連携も企画・実践します。国立大学法人(独立行政法 人)化する前には、大学にはほとんど無かった機能です。 Q:長田機構長は北大でいろいろな兼務していますが。 A:北大の研究と産学官連携を担当する副学長として、知的財産本部長も兼 務しています。北大から優れた知が産まれ、その知を活用して産業化を図る仕 掛けを具体化していきます。北大から知を創造する司令塔の創成科学機構の機 構長として産学官連携による社会還元を果たし、知の活用までを一貫してみて います。 〜インタビューを終えて〜 長田義仁機構長は、日本の国立大学には本来なかったトップダウン型マネジ メントを導入しようとしている代表格の一人。従来の部局縦割りの研究体制に、 部局横断型の研究体制を盛り込む大学の組織改革に励む。 しかも北大の場合は、その成果として北海道地域の活性化という地域振興も 同時に強く求められる。他の有力研究大学は、“全国区”の大学として研究成 果の技術移転先を日本全国に求めればいい。これに対して、北大は“全国区” の大学として研究成果の技術移転先を全国の企業に求めると同時に、北海道の 地元企業の新規事業起こしにも貢献することが強く求められている。 北海道は大手企業の本社が少なく、製造業の主力事業所(工場)や研究所も 少ない。北大の優れた研究成果を、日本の他の地域の企業に技術移転するだけ では、北海道にある有力大学としての社会還元の責務も果たせず、いつまで経っ ても北海道の産業振興につながらない。 地域振興実現のためには、研究企画室の戦略スタッフや研究支援室のスタッ フによる研究戦略・支援が欠かせない。研究成果に基づく実用化・事業化のビ ジネスモデルを描き、特許マップによる強みと弱みを判断するなどの戦略スタッ フ実務担当者6人と、研究者の技術サポートを担う研究支援室のスタッフ12人の 役割は大きい(人数は2005年8月時点)。 創成科学機構による北海道の地域新興は、大学を核とした地域振興のモデル ケースになる。地域経済が低迷し、大学にその解決策を求める地域は少なくな い。当然、北大を核とした北海道の地域振興策は産学官連携のモデルケースと して注目を集めている。 ■丸山 正明(まるやままさあき) 編集委員室編集委員・産学連携事務局編集委員。 東京工業大学大学院/東海大学大学院の非常勤講師。経済産業省/新エネル ギー・産業技術総合開発機構(NEDO)/産業技術総合研究所などの政策評価/ 技術評価委員などを務める。現在、「産学連携ビジネス」サイトなどを執筆。 「産学連携ビジネス」サイトURL=http://nikkeibp.jp/jp/sangaku/index.html 単行本「東工大COE教育改革」のURL= http://bpstore.nikkeibp.co.jp/item/main/148222320260.html 単行本「産業活性化を担うプロジェクトマネジャー養成講座 東工大COE教育改 革PM編」のURL= http://bpstore.nikkeibp.co.jp/item/main/148222320420.html |