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新首都圏ネットワーク

『読売新聞』2005年10月19日付

600万円の会員権買えば東大病院でがん検診

申し込みすでに100件・・・来秋開始
   

 600万円の会員権を買うと、東大病院(東京都文京区)でがん検診を受け
られるサービスに、6月の募集開始からこれまでに100件余の申し込みがあっ
た。

 同病院が民間企業と提携し、最先端の診断装置による検診を11か月に1回、
提供する試み。国立大の法人化を契機に民間企業とのタイアップは進んでいる
が、公共性の高い国立大病院での事業としては異例の〈高額商品〉の登場だ。
専門家からは「しっかりした理念と情報公開が必要」といった注文の声もある。
検診は来秋、スタートする。

 この「会員制がん検診サービス」で、東大病院は、会員制リゾートクラブな
どを展開するリゾートトラスト(本社・名古屋市)の100%子会社と提携。
同社が会員権を販売し、東大病院の医師らが検診を担当する。来年10月、同
病院内に完成する「22世紀医療センター」の中に会員専用の検診スペースが
設けられる。

 検査項目は、がんのほか心臓や脳神経など。小さながんも発見できるとされ
る「PET(陽電子放射断層撮影)/CT(コンピューター断層撮影法)」な
ど最新機器類を同社が東大病院に設置し、一部は寄付される。

 医療保険は適用されない自由診療で、費用は15年間(検診16回分)の会
員権が600万円、さらに25万円の年会費がかかる。現時点で法人・個人合
わせて100件余の申し込みがあり、同社はスタートまでに3500人の会員
確保を目指す。

 国内で年間約30万人ががんで死亡する中、多くの医療機関ががん検診事業
を展開している。費用については、PET/CTを使う検診でも、国立がんセ
ンターのがん予防・検診研究センターで1回20万円前後。これに比べて、東
大病院(1回分約61万円)の高値感が目立つが、同社は「機器の精度だけで
なく、検診当日に東大の医師が結果を説明するなど、きめ細かいサービスが特
徴」と強調。

 東大病院の大友邦・放射線科教授は「一部の裕福な人に特定のサービスを提
供することへの批判は覚悟している」としながらも、「得られたデータはがん
予防研究に役立てるし、提携会社からは一般患者用の機器の寄付もある。この
事業によって困る人はおらず、目指す医療や研究の実現のためには、自分たち
で経済基盤を確立することも必要だ」と説明する。

 この取り組みについて、旧日本債券信用銀行で産業調査部長を務めた経歴を
持つ布施泰男・一橋大非常勤講師(医療経済学)は「高齢化が進む中、健康志
向と『東大ブランド』への期待を当て込んだ今回のような商品が登場するのは、
自然な流れとも言える。ただ、法人化したとはいえ、東大病院は多額の公金が
投入された公的性格の強い病院。一般の診療行為の中に会員制医療をどう位置
づけるのか、きちんと説明するべきだ」と指摘。

 医療ジャーナリストの和田努さんは「良質な医療は本来、みんなが等しく保
険の枠組みの中で受けられるのが理想。医療界全体で慎重に議論する必要があ
る」と話している。