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新首都圏ネットワーク

日経ネット関西版 2005年10月17日付

学生を確保せよ(4)「地域の雄」に異変──国立大、近畿以外へもPR


 近畿地方の国立大学が圏外からの学生確保に力を入れ始めた。神戸大が今年
初めて東京、名古屋、広島の3都市で進学説明会を開催したほか、大阪大学や滋
賀大学も人材を幅広く求め、携帯電話やホームページ(HP)など学生に親し
みのあるツールを駆使する。少子化社会を迎え教育や研究水準を守るため、伝
統ある地域のブランド校が、先行する私大の受験生確保策を必死に追い掛けて
いる。

●広島で長蛇の列

 「神戸大は日本で最多の学部学科を持つ大学の1つ。大学をよく知ってぜひ受
験してほしい」。10月8日、進学説明会で西田修身副学長があいさつした場所は
広島市中区。

 説明会では「キャンパスにはイノシシが出ます」との笑いを誘う発言の後、
留学生数や文部科学省の「21世紀COEプログラム」採択数など研究実績を続
けざまにPR。個別相談では11学部12学科の教員が受験生に向き合った。

 呉市の高校3年、土田拓郎さん(17)は「県外の大学の説明会はあまりない機
会だが、個別相談で親切に教えてもらい、来てよかった」と笑顔を見せた。広
島市の高校3年、佐藤優美さん(17)は「夏は別の大学のオープンキャンパスに
行ったが、神戸大もいいなと思った」と教員らが出向いた説明会に満足げ。

 開始直前まで受付の行列が長く伸び、急きょ会場の座席を追加する盛況ぶり
で、この日参加者は受験生が159人。保護者も含めると200人を超えた。近畿以
外で進学説明会を開くのは今年が初めて。国立大学単独で地方に遠征する説明
会開催は全国でも珍しいという。

●「40―50校回る」

 学生の出足については「まあまあ」と福留純郎学務部長は表情を崩さない。
神戸大は学生の約7割が近畿出身。他地域も西日本が多く、東海、関東地方以東
の受験生は少ない。同じ近畿に京都大、大阪大の「旧帝大ブランド」がある。
今後の生き残りには大学の全国ブランド化は大きな足掛かり。そのためには
「大学の知名度が低い地域でもアピールしなければ」との厳しい現実がある。

 このほか、地元志向が強い名古屋と、大学が集中する東京にもあえて足を運
んだ。6月からは中四国や東海、関東の高校を「40─50校は回った」(福留部
長)。その成果が少しは表れたのか、「50人来れば大成功」と見積もっていた
名古屋では保護者も含め約140人が参加。東京でも20―30人との予想を覆し約
80人が集まった。

 1会場が終わるごとに内容や構成を見直した。参加者の反応やアンケートをす
ぐに反映させて、受験生予備軍の印象を高める努力も忘れない。「他人任せで
はニーズは把握しきれない」と福留部長は手作りの意義を強調する。

●月2回メルマガ

 滋賀大学は今年から「ケータイ」をPR手段に使っている。受験生向けの携
帯電話サイト(http://daigakujc.jp/u.php?u=00002)を開設、メールマガジン
の配信も始めた。大学1年生の声を基に「おすすめ参考書」「苦手科目の克服法」
などの内容を月2回、配信するサービスぶり。登録数は現在、500―600人と目標
の1000人には及ばないが、「1日も早く達成したい」と話す。

 隣接府県の受験生確保は欠かせない。経済学部の志願者は45%が近畿圏外か
ら。隣接する岐阜県など東海、北陸地方の志願者が多い。「高校生の間で普及
が進む携帯電話でもっとアピールしたい」(入試課)。今後は合格発表の速報
も配信するなど受験生サービスを充実させる予定だ。

 「全国から優秀な人材を」という傾向は大学院では一層強まる。大阪大学は
理学研究科物理学専攻(修士)の入試を今年初めて東京でも行った。HP
(http://www.phys.sci.osaka-u.ac.jp/tokyo/index.html=今年は終了)のみ
の広報だったが、志願者は19人。しかも口コミで知った割合が多く「方策を練
ればもっと集まるのでは」と岸本忠史教授は知名度向上に気をもむ。

 専門性が強い大学院は、研究室の方向と学生の志向とのマッチングが研究成
果を左右する。「東京は最大の人材マーケット。うまく情報発信することでニー
ズに合った優秀な人材を確保したい」と岸本教授は話す。国立大が「地域の雄」
に安住する時代は終わりに近づいている。 (大阪社会部 吉田直子)

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