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新首都圏ネットワーク

『朝日新聞』2005年10月17日付

大学が手取り足取り退学対策


 国立大学生の退学や休学、留年が増え続けている。こんな実態が、茨城大学
保健管理センターの内田千代子助教授の調査でわかった。国立の退学率は1.
6%で、私立大学も3.3%と同じ問題を抱える。ニート増加の現実を前に
「勉強する・しないは自己責任」との過去の常識を捨て、手取り足取りの退学
対策や学生指導に踏み切る大学もある。

◇私立 教員と交換日記・生活相談

 関東学院大学(横浜市金沢区)の工学部では、03年度まで毎年40人前後、
新入生全体の5%を超える学生が退学していた。主な理由は「成績不良」や
「専門学校への転入学」。退学者の64%は、取得単位数が5単位以下だった。

 ところが04年度は、退学者数は13人。前年度の40%以下に減った。在
校生の平均取得単位数も、前年度の「38」から「40」に改善した。

 「教育の質の転換」をめざす改革の2本柱として少人数教育の導入と学生支
援室の設置に踏み切ったのが大きいという。

 少人数教育では、「フレッシャーズ・セミナー」と題して1年生を対象に
「大学生として守るべきルール」や「論文、実験リポートの書き方」などの講
座を実施している。学生と教員の間で交換日記を始め、コミュニケーションも
図る。

 学生支援室は、中退問題を改善するため、03年に工学部単独で始め、今年
度から全学部に広げた。金沢八景キャンパスだけで月に2000件近い相談が
寄せられている。

 授業中の小テストで合格点が取れなかった学生は支援室を訪れ、高校の教員
経験者や大学院生らのアドバイスで再度テストを受ける。同室内には学生の履
修登録状況リストや、高校生用の学習参考書も置かれている。

 工学部の2年女子は「1年の4月に履修登録の相談に来て以来、ほぼ毎日こ
こで宿題などをこなしている」と話す。授業の説明が理解できなくて相談した
り、過去の試験問題の解き方を教えてもらったりしている。

 支援室には、職員3人が常駐。教員や大学院生15人も交代制で詰める。学
習内容や転部転科などの進路相談、サークル活動や対人関係、悪徳商法の断り
方まで、学生生活全般を支援する。

 松井和則工学部長はこう話す。「中退問題は大学にも責任がある。中退者が
その後ニートなどになれば社会問題にもつながる。教職員側も『自ら学ぶはず』
という従来の大学生像を変えなくてはならない」

◇中間成績表など対策

 日本私立学校振興・共済事業団が03年度に行った調査では、全国の私立大
学・短大の8割以上が、中退者に対して何らかの対策を取っていた。

 「よろず相談窓口を設置して学生の悩みを吸い上げた」「少人数によるクラ
ス担任制を採用した」「学期途中で教員が『中間成績表』を提出して学業不振
の生徒に早めに助言する態勢を整えた」などの例がある。

◇国立 保護者に連絡「かつてと質違う」

 国立大でも取り組みが始まっている。

 琉球大(沖縄県)では03年度、在籍学生約7000人のうち、退学者数が
200人(約3%)にのぼった。このうち単位不足で除籍になった学力不振者
は7割。工学部が約半数を占め、男子学生が圧倒的に多い。

 「入試方式が多様になって、高校までの科目履修状況や学力が様々な学生が
入学してくる。特別なケアが必要」(同大教務課)として、対策を本格化した。
1、2年の教養課程で学ぶ数学、物理、化学に、高校までの未履修者を対象と
する「入門講座」を設け、単位として認める。また、単位外での補習授業や、
放課後に大学院生が質問に答える学習サポートルームも設置した。

 04年度の退学者数が158人、うち学力不振者も106人に減少した。徳
丸利秋・教務課長は「来年度からは新教育課程で学んだ人が入ってくる。さら
に、対策とその効果を詳細に詰める必要がある」と話す。

 一方、茨城大の内田助教授は「以前よりも学業そのもので悩む学生が多い。
従来なら自身で解決できた問題が処理できない」と指摘する。同大学内では、
各学部の単位不足や退学希望の学生は必ず保健管理センターに回し、相談に来
てもらう仕組みを作っている。

 また、長崎大は一部の学部で、卒業が危ぶまれる学生の保護者に連絡を取る
試みを始めた。上薗恒太郎副学長が話す。

 「ゼミ生に大学でつらかったことを尋ねたら『先生に1カ月、何をしたいの
か聞かれ続けたこと』と返ってきた。大学に入って当たり前の時代だから、逆
に何のために入ったかわからなくなっている。かつてのサークルなどにのめり
込んだ末の留年とは、質が違っている」