トップへ戻る  以前の記事は、こちらの更新記事履歴
新首都圏ネットワーク

『科学新聞』2005年9月23日付

国の大学支援の在り方示す

科技・学術審議会
"研究の多様性確保せよ"
施設整備 戦略が評価対象に

 "各大学は学術研究推進戦略を作成し、学術研究の多様性を確保せよ!"。科
学技術・学術審議会の学術分科会(分科会長=石井紫郎・日本学術振興会学術
システム研究センター副所長)は、10月後半にも「研究の多様性を支える学術
政策—大学等における学術研究推進戦略の構築と国による支援の在り方について
(第一次報告)」をとりまとめる。この報告書、国立大学の法人化、政策目的
型競争的研究資金やプロジェクトの増加、産学連携の活発化という状況変化の
中で、受託研究機関にとどまるのではなく、大学本来の使命である多様な研究
を確保すべきであるとしている。

 21世紀、日本の学術政策は転換期を迎えている。知を基盤とする社会となり、
知の創造・継承・活用は社会発展に不可欠となっている。学問もボーダレス化
してきた。また、学術研究の中心を担う大学の改革が進み、国立大学等の法人
化を契機に国公私立大学等がそれぞれの個性や特色を活かしながら大きく変容
している。さらに科学技術基本計画に基づく重点化が学術研究全般に大きな影
響を与えている。他方、諸外国も科学技術関連予算を増やしており、国際競争
は激化している。

 こうした中、学術研究により、重厚な知的ストックを構築し、知による安全
保障・高度な教育・優れた人材育成を進めていかなければならない。そのため
には、研究の多様性の促進、個々の研究者の持つ意欲・能力の発揮を図る政策
が必要になる。

 各大学は、研究者の意欲と能力が最大限発揮されるような研究環境を整備す
るため、学術研究推進戦略を確立することが必要。戦略は、各大学の実情に合
わせて構築されるべきものだが、その根幹となる「人材・組織戦略」「研究資
金戦略」「研究基盤戦略」の3つについては、特に検討しておくことが必要。
また、大学間連携による研究の活性化が不可欠である。

 国は、個々の研究者と各大学等の研究活動が円滑に行われるように支援を行
うことが基本であり、日本の政府負担研究費と高等教育機関への公財政支出の
対GDP比を欧米並みに近づけていくことが必要。その際、(1)デュアルサポー
トシステムによる研究の多様性の促進、(2)研究者と大学等の研究活動を支援す
る多様な方策の構築、(3)独創的・先端的な研究の推進と研究拠点の形成を基本
にすべき。

 具体的には、(1)基盤的経費の確実な措置と多様なファンディングの拡充、
(2)学術研究基盤の着実な整備の支援、(3)世界的研究教育拠点の一層の整備と
若手研究者の育成、(4)国際的に開かれた大学作りの推進と学際的・学融合的研
究分野の推進。

 報告書では最後に、学術研究は国民各層の幅広い支持が不可欠であるため、
国民への説明責任と学術研究を国民に身近なものとする方策、次世代への還元
と知的ストックの継承、知的ストックを国民・社会に広く還元し共有・継承す
る意識が大切であると、研究者に求めている。

   ※ ※ ※

 戦略を策定するかどうかは各大学の自主的な判断によるが、清水潔・研究振
興局長は「国立大学法人については、施設や設備の整備などの評価にも当然反
映される」と話しており、研究を中心とする大学にとっては必須のものとなる。
中期計画をいかに研究の多様性に特化してブレークダウンするかが鍵となるた
め、大規模な総合大学ほどきめ細かな戦略が必要になる。また私立大学にとっ
ても、研究大学であると自ら任じるかどうかを問うことになる。