トップへ戻る  以前の記事は、こちらの更新記事履歴
新首都圏ネットワーク

2005年9月26日(月)「しんぶん赤旗」
ゆうPress
高すぎる学費 学生生活の障害に
バイトせず通えたら
------------------------------------------------------------------------

 コンビニや飲食店、家庭教師など、さまざまな場所で、アルバイトする学生たち。アル
バイトをしなければ修学できない学生が増えているといいます。学生であるためにアルバ
イトに励む人たちに聞きました。

(本田祐典)
------------------------------------------------------------------------

■帰宅は深夜、眠らず試験勉強 国立大1年

 「なかなか勉強に専念する時間がない」と語るのは、東京大学一年生の山口みゆきさん
(19)=仮名=。生活費のためのアルバイトが学問の障害になっていると感じています


■仕送りはなく

 家からの仕送りはありません。生活困難なため、前期の学費は免除になっていますが、
ずっと続くとは限りません。そのために、借りている奨学金は貯金しています。寮生活を
しながら、生活費はすべてアルバイト収入から。進学塾でのアルバイトは時給千円。働く
時間は日によって違いますが、午後四時から夜中の十一時まで働くこともあります。

 七月のテスト期間中のこと。山口さんがアルバイトを終えて帰宅したのは深夜十二時で
した。翌日はテストです。その日は眠らずに勉強しました。「働かずに大学に通えたら…
」。そんな思いを口にした山口さんの表情が曇りました。

 本来ならば大学進学は困難でした。父親の年収は二百四十万円ほどです。以前に事業で
失敗し、借金もあります。子どもは六人。山口さんは上から二番目、下に四人の弟妹がいます


■姉のおかげで

 受験費用を援助してくれたのは、二つ年上の姉でした。アルバイトを三つ掛け持ちして
働いたのです。「姉は自分自身は進学していないんです。自分にも夢があるのに、あきら
めて働いてくれているんです」

 山口さんは大学院に進まず、卒業後はすぐに就職するつもりだと語ります。「今度は自
分の番。姉には自分の夢を追いかけてほしい。弟や妹の学費のためにもはやく働こう」と、
決意しています。

■学びたいけど大学院へは… 私立大2年

 「こんなにお金がかかる。ばからしくなる」。指宿雅俊(いぶすき・まさとし)さん(
19)は、神奈川県内の私立大学二年生。工学部で材料工学を学んでいます。指宿さんは
「自分で学費を払おう」とアルバイトをしています。

 指宿さんの学費は一年間で約百二十万円。初年度は入学金を含めて百四十五万円でした
。家は弟二人にかかる教育費、祖母の介護…など、経済的負担が続きます。指宿さんは去
年の夏からアルバイトを始めました。

■朝の4時まで

 夜十時から朝四時まで週二日、コンビニで働きました。八カ月間続けると体調がおかし
くなりました。「いくら寝ても疲れがとれない」状態に。

 「つらかった」と、指宿さん。いまは週三日、夕方からレストランで働き、帰宅は午前
二時ごろです。アルバイト代は月に六、七万円。コンビニよりも「だいぶラク」になりま
したが、それでも朝九時からの授業に間に合わないことも。

 学費のための節約、昼食は自分でつくったおにぎりです。教科書や本は部活の先輩に頼
んでタダでもらいます。毎月五万円をためるのが目標です。月五万円の奨学金を足して、
やっと学費分になります。

■すぐに消える

 一生懸命にためたお金もすぐに学費に消え、「落ち込みます。切なくなります」。あま
りにも高い学費―。指宿さんは大学院への進学をあきらめています。

 一方、授業を受ける中で「学ぶ喜び」は強くなっています。「わからないことでも、追
求すれば理解できる。それが楽しい」。いきいきとした表情で語ります。

 「材料工学の勉強を続け、新しい素材の開発にかかわりたい…。そんな夢もあるんです
」と、語る指宿さん。「大学院に進みたくなったら、どうしようか」と悩んでいます。

■学費無償化が世界の流れ、日本は逆行 千葉大学名誉教授三輪定宣さんの話

 すべての青年、学生が享受すべきもの、それが教育を受ける権利、教育の機会均等です
。憲法と教育基本法に明記された国民の権利です。

 大学に入学しても、学生生活の維持に、学びの障害となるような過度のアルバイトが必
要だというのでは問題です。学びが奪われているのです。権利が侵害されているといえる
でしょう。

 背景には高い学費の問題があります。日本では、この三十年間で、国立大学の授業料は
年間三万六千円から、五十三万六千円にまで上がっています。この継続的な学費値上げ政
策は「受益者負担」という考え方のもとに行われてきました。

 教育という「利益」を受ける人が、その費用を負担すべきというのです。「受益者負担
」は一九七一年の中央教育審議会(中教審)答申で初めて公的文書に導入され、今日まで引
き継がれてきました。

 こうした日本の学費政策は世界でも異常です。国際人権規約第一三条は、中等教育(高
校)や高等教育(大学)の無償化を進めることを定めています。日本は一九七九年に国際
人権規約に批准したものの、高等教育の無償化については留保しました。留保したのは百
五十一の締約国のうち、日本、ルワンダ、マダガスカルの三カ国だけです。

 二〇〇一年八月、国連国際人権規約社会権委員会は、日本に対して「留保の撤回の検討
を促す」と勧告しました。〇六年六月までに、学費無償化に向けてどのような措置をとる
のか、詳細な報告書を提出するように求めています。

 いま、日本は世界の流れに逆行する政策を進め続けています。学費の負担を軽くし、奨
学金制度を拡充することは、青年の夢と希望を広げます。そのことがいま求められていま
す。
------------------------------------------------------------------------

■5割が「学ぶためバイト」 文科省調査

 文部科学省の「学生生活調査」によると、昼間部の大学の場合、働かなければ「修学不
自由・修学困難」な学生は1996年には学生全体の約3割(30.3%)でした。しかし、2
002年には約5割(47.1%)に増加しています。

 一方、アルバイトをしているものの、しなくても「修学可能」な、「ゆとりのアルバイ
ト」をしている学生は1996年には約5割(48.1%)でしたが、2002年には約3割(2
9.7%)に減少しました。

 学生のアルバイトは「ゆとり」のためから、「学生生活維持」に大きく変化してきてい
ます。
------------------------------------------------------------------------