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『文部科学教育通信』2005年9月26日号 No.132 「教育ななめ読み」 79 「市場化テスト」 教育評論家 梨戸 茂史 いまや「小さな政府」を目指し「効率化」や「総人件費の削減」が叫ばれる 世の中。どういう訳かお役所がやると非効率で無駄が多いとされる。見本にも 事欠かない。社会保険庁は積み立てた年金をコストを考えないで保養施設など を作って運営費を垂れ流す。大阪市役所では労使で合意して背広を支給する手 当まで設けた。経産省やあちこちの警察本部は裏金つくりまでやっている。一 方「民間」がやるのは効率的で正しいらしい。政治も「官から民へ」の流れを スローガンとする。 そのひとつが「市場化テスト」。政府の規制改革・民間開放推進会議がこの 手法を新しい行政改革として提言したのが昨年の八月のこと。二〇〇五年度に 試行し、〇六年度から本格導入を目指すと言う。これは「官民競争入札」とも 呼ばれ、いろいろな公共サービスに「官」と「民」がコストやサービスなどを 競って優れた方が落札するという仕組み。有名な例がアメリカのインディアナ ポリス市。英語でMarketization (行政サービスの市場化)と言うそうな。同 市では下水処理施設の管理運営で民間の公共企業体が受託。成果は五年間の契 約で総額約七〇億円、四四%のコスト削減。排水処理後の川の水質が八六%改 善された。従来の市職員が三二八人から一七六人に削減され、受託先へ移った 職員の処遇が向上した。さらには現場での事故件数が七〇%減ったことがあげ られている。ホントならいいことずくめなんですね。 これと似た民間への仕事の移動方式に民営化がある。民営化は行政組織の全 部か一部を組織変更して民間部門に移行させそこで行政サービスを行うもの。 国鉄がJRになって確かに効率的になりサービスも向上したように見える。もっ とも本質的な体質まで変われたかどうかJR西日本の電車事故は問題を提起し た。もうひとつ、民間委託というのもある。業務の主体は行政機関だが実施は 外部にやってもらうもの。どちらも行政から分離したり委託する方式だが、市 場化テストは競争入札の結果、官か民かのいずれかがその事業を実施するとこ ろが違う。ちなみに、先のインディアナポリス市の例でもごみの収集を入札に かけたところ、市が三つの区、民間が七つを受注した。市道の維持管理は市の 公共事業部門が落札。市営ゴルフコースはプロゴルファーの団体が受託。そも そも市がゴルフコースを持っていることの是非は問題になっていないのが面白 い。二九路線の公共バスは民間企業が一〇、市が一九路線を落札した。乗り継 ぎがうまくいっているかどうかは不明。市場化テストの効果は、コストや人員 削減といった直接的なものと職員の意識改革が進み積極的な取り組みが行われ るという間接的な効果が指摘される。 さて国立大学で言えば、究極の「民間」にまかせる方式は「私学」化だろう。 それがどうなっているのか。私学の四年制大学の五四二校について今年の春の 入試で定員割れになったのが一六〇校だと日本私学振興・共済事業団が発表。 全体の二九・五%だ。地域別では中国地方の私学は六一・八%、四国が五〇・ 五%、北海道で四七・八%が定員割れ。私立短大の定員割れは一五八校、全体 の四一・三%になった。少子化が原因とは言え、これで見ると国立大学を「民 営化」するのはお先真っ暗だ。大学は「民間」にはできない見本かもしれない。 なんでも「民間」にするなら首相の警備も警備会社でやらないのはなぜだ。外 国では軍隊の民営化すらある。税金や社会保険の徴収も競争入札で市場化テス トしたらいい。サラ金の取立て業者が応募するかも。公務員削減にも合致する 政策ですぞ。 |