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新首都圏ネットワーク

『読売新聞』2005年9月20日付

京大出前授業始まる


 “京大ブランド”を生かした取り組みが、京都府内の小中学校などで行われ
ている。府教委は、京大教授らを「科学探偵士」「ITの達人」に登録、小中
学校を訪れてもらい、学問の魅力を伝える事業をスタートさせた。京都市教委
も京大と共催で「ジュニアキャンパス」を近く開催する。児童、生徒に学問へ
のあこがれ、意欲を駆り立ててほしいと願う学校側。国立大学法人となった京
大側も地域社会への貢献を重視しており、双方の思惑が一致した。

植物の神秘に児童輝く

 9月15日。大山崎町立大山崎小の5年生約80人が、京大名誉教授で植物
生態学の河野昭一さん(69)の特別授業「花と虫たちの持ちつ持たれつ―共
生の世界」に聴き入った。

 「カタクリの種の先にはアリの体の表面のぴかぴか光るものと同じものが詰
まっている。アリは、この種を自分たちの子どもと思って運ぶんです。種をあ
ちこちにまいてもらう植物のほうが、賢いですよね」

 河野さん自身が撮影したアリやカタクリなどの写真に、子どもたちはくぎづ
け。井木美里さん(11)は「虫によって花にくる目的が違うなど、詳しく教
えてくれた。理科はこんなに面白いんだとわかった」と納得した様子だった。

 府教委は今年度、京大の教授ら9人を「科学探偵士(サイエンス・ディテク
ティブ)」として登録。生物学や動物学、地球物理学などの分野の教授らが、
府内の小、中学校20校からの要請で出前授業をして、科学の世界の魅力を伝
える。社会情報学や数理科学などの分野の5人も「ITの達人」として登録、
10校がITを活用した新しい学習法や情報モラルについて学ぶ。

 3年前に総合学習が本格導入されてから、伝統産業や福祉、環境などの分野
で活躍する地域の人が学校で話をする機会は格段に増えた。しかし、大学教授
らによる「授業」は、高校では増え始めたものの、小、中学校では少ないのが
実情だ。

 河野さんは授業後「小学生にわかりやすく話すのは苦行に近いですなあ」と
ユーモアを交えながらも、「小学生は大人が思う以上に感性が豊か。子どもが
興味を自分から持ち、個性を伸ばしていける授業を我々も考えないと」と語っ
た。

 府教委は「せっかくの専門的な授業。児童に芽生えた興味や関心を、日常の
授業とどうつなげるかが課題」とする。大山崎小では来春、カタクリの花が咲
くころに、近くの山に観察に出かけるという。

「どう講義」教授らに戸惑いも

 京大と京都市教委は23、24両日、吉田、桂、宇治の3キャンパスで京都
市内とその近郊の中学生を対象にした「ジュニアキャンパス」を開く。「シロ
アリは地球を救うか?」「勉強とは何か」など、29のゼミが開かれる。

 定員の100人を大きく上回る158人から応募があったが、今回は全員受
け入れることにした。京大教務課は「申し込みの時、保護者の方から『これま
では京大には縁もゆかりもなかった』という声も聞きました」と打ち明ける。
ジュニアキャンパスの初開催には、法人化後、地域社会にもっと貢献すべきだ
という意識が大学全体で進んできた背景がある。同課は「この機会に幅広く学
問に触れ、結果として将来、京大に進学してくれたら何より」とも。

 「子どもたちにどう講義すべきかわからない」との戸惑いの声もあるが、京
大の教員は教授、助教授、講師、助手ら約3000人。府内にはほかにも51
大学があり、学問の街・京都で、豊富な人材を小、中学校の教育に生かす余地
はまだまだありそうだ。