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新首都圏ネットワーク

『日本海新聞』2005年9月16日付

鳥大病院 診療科相次ぎ新設
29科体制 保てるか


 鳥取大学医学部付属病院(米子市西町、石部裕一院長)で近年、病気の種類
の変化や医療ニーズの多様化に対応するため、診療科や外来の新設が相次いで
いる。しかし、従来の定員で医師をやりくりする綱渡り的な運営に加え、昨年
四月の独立法人化による補助金削減など経営環境は厳しく、将来にわたって現
在の体制が維持できるか、不安はぬぐえない。

 現在、同病院には診療科が二十九あるが、このうち二〇〇三年以降に七科が
新設された=表参照。

 血液内科は今年四月、第二内科から独立する形で開設された。山陰地方には
血液の専門医が少なく、悪化してから見つかる例も多いことから患者には朗報
で、常時二十人以上の入院患者がいる。化学療法に不可欠なクリーンルームも、
五床から十六床に増えることが決まった。

 しかし同科の医師は五人と、既存の診療科の半数ほどしかいない。これで他
の診療科と同様に診療や当直をこなし、学生の指導にも当たらなければならな
い。他病院からの紹介患者も増えているものの、既に手いっぱいの状態という。

 科長の岡崎俊朗教授は「優先順位を付けて取り組まないと、十分な治療がで
きない」と患者の受け入れがままならない実情を語る。同病院では法人化後も
医師の定員は据え置きで、新設の他科も同じ悩みを抱えている。

 ただ、診療科目の増設が増収に直結するわけではないのが実情だ。同病院の〇
四年度の医療費原価率は113%。これは患者一人が一回入院した場合、百円を稼
ぐのに百十三円かかることを意味する。これまで赤字は国からの交付金で補え
たが、法人化に伴い段階的に減額されており、〇八年度には廃止される。

 同病院では経営の効率化に取り組んでいるが、石部院長は「今は減額分に対
応できているものの、効率化にも限界がある。補助金がなくなる時点で、借金
でまかなうか、経営を縮小するか考えないといけない」と厳しい表情を浮かべ
た。

 収入増を図るには診療費が病院の裁量に任される自由診療を増やすのが近道
だ。美容外来などが代表的で、比較的コストがかからず収益を上げられるとい
う。が、都会とは異なり人口が少ない山陰地方では需要が低く、経営にとって
さほどプラスにならない。

 とはいえ、地域医療の中核を担うだけに経営縮小には踏み切り難い。石部院
長は「非採算部門だからといってやめるわけにはいかない。診療に幅を持たせ
ながら、トータルで損失が出なければいい」と強調。一人当たりの平均入院期
間を他の国立大の付属病院並みの二十日まで短縮するなど医療費原価率も改善
しつつあると説明した。

 一方、岡崎教授も「患者は待ってくれない。(診療科という)受け皿はでき
たので、人材育成システムをどう確立するかが課題」と述べ、他の病院の専門
医とうまく治療を分担する病院間のネットワークづくりを改善策として挙げて
いる。

鳥大病院で近年新設された診療科

開設時期 名称 主な診療内容
2003年4月 小児外科 腸閉鎖、鎖肛など新生児の先天的な疾患に対する外科的治療
形成外科 腫瘍切除後の傷跡や神経、血管の再建手術
総合薬物治療科 生活習慣病などに対する的確なさじ加減の薬物治療、禁煙外来など
同5月 救急災害科 心肺蘇生術、外傷患者治療、災害医療など
2004年10月 救命救急センター 24時間体制で重篤な救急患者に対応する三次救急医療機関
2005年1月 胸部外科 肺がんなどの胸部疾患に対する胸腔鏡手術を推進
同4月 血液内科 白血病など「血液のがん」に対する抗がん剤治療が中心

主な新設外来など

開設時期 名称 治療内容
2004年4月 高次脳機能障害専門外来 交通事故などによる脳の損傷で生じたさまざまな障害の治療、相談
2005年4月 屈折(近視)矯正 エキシマレーザーを用いて角膜を切除し、近視を矯正する(自由診療)
同6月 皮膚美容外来 にきび、小じわ、しみを薬剤で取り除く(自由診療)