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新首都圏ネットワーク

『科学新聞』2005年9月2日付

今後の科学技術予算

財務省主計局主計官(文部科学省担当)中川真氏に聞く


(なかがわ・まこと)1959年12月22日生まれ、東京都出身。昭和58年東京大学
法学部卒、大蔵省入省。60年英国ケンブリッジ大学留学、平成元年名古屋国税
局伊勢税務署長、2年IMF職員、5年から10年まで主計局主計官補佐として、
経済協力、年金、医療、介護・福祉などの予算を担当、11年OECD金融財政
企業局税制支援室長、15年主計局主計企画官(調整担当)、今年7月から現職。

 各省庁の予算は、8月末の概算要求でどういう事業でいくら必要なのかを財
務省に提出し、それを年末までに財務省が査定し、予算案を決定する。その間
に総合科学技術会議のSABC評価を参考にするものの、最終的な決定は財務
省主計局が行う。今後の科学技術予算のあり方、第3期科学技術基本計画を巡
る議論、国立大学法人などについて、7月に財務省の主計官(文部科学担当)
に就任した中川真・主計官にお話を伺った。

マイナス3%ベースで見直し

――これまでの仕事

 これまで20年を超える経験のなかで、約半分が主計局での予算編成、残り半
分が海外赴任を含めた国際金融関係の仕事。経済学の研修でケンブリッジに留
学したことから始まって、そのあと国際金融局でIMFやG7、サミット、為
替制度などを担当し、その後も、ワシントンD.C.のIMFに出向していたので、
最初はずっと国際金融の仕事でした。その後は主に主計局と官房。主計局主査
の時代は、主に、年金・医療・介護・福祉という社会保障関係の予算を担当し
ていた。

 特に、医療担当のときに脳循環代謝改善剤について勉強したことが記憶に残っ
ている。脳循環代謝改善剤の効能に疑問があるというご意見を医療現場の先生
方や報道関係者から耳にしたので、厚生省から話しを聞いてみると治験でも有
効率がかなり低いものがあることは確かとの心象だった。また、諸外国での承
認状況を見ても、中国やブラジルなどでの承認例はあるものの、欧米での承認
例はなかった。このような医薬品に保険料、税金、患者負担という国民負担が
毎年2000億円も使われていることに強い疑問をもったし、また学会でも、薬と
して承認された後に薬効ガイドラインが見直されていて、言わば医薬品として
のハードルが事後的に高くなっているにもかかわらず再評価がなされていない
ことを知り、厚生省には脳循環代謝改善剤を再評価し、新ガイドラインでも医
薬品として認められるのか、それともただの化学成分でしかないのか検証が必
要ではないか、と相当議論した。

 「再評価にはコストも時間もかかる」と厚生省にいわれたが、頑張り通して、
結局、30成分を超える脳循環代謝改善剤の再評価をその後2年間程度でやって
もらった。その結果、一成分を除いて有効性は認められず、医薬品としての承
認は取り消しになった。この時、現場の方々から話をよく聞いて、データに基
づいた客観的な議論を積み上げることの大事さをつくづく感じた。

 その後、パリのOECDに赴任し、国際課税に関する途上国支援を担当した。企
業活動が国際化すると、国と国との間で課税権を調整しなければいけない問題
が出てくる。OECDでそのガイドラインを作ってるので、中国やASEAN
諸国に対して研修をしたり、実際に彼らが国内ルールを作る作業を手伝ったり
と、技術協力をやっていた。

 帰国後、この2年間は主計局で三位一体改革を担当した。調整担当企画官と
いうのは、主計局の中で補助金全体のとりまとめをしている仕事、地方公共団
体向けの補助金改革のプラン作りをやっていた。一昨年末の1兆円の補助金改
革、昨年は17年度と18年度の補助金改革のプラン作りとかを担当。科学技術で
は地方向け補助金はあまりないが、義務教育国庫負担金をどう改革するかを含
め、これまで主計局内の作戦本部で担当していたが、今度は主計官として、最
前線で担当することになった。

――今後の政策課題

 一つは義務教育国庫負担金をどう決着をつけていくか。あとは第3期科学技
術基本計画を見据えて科学技術関係の予算をどの様に考えていくか、今年の一
番大きな課題。3番目は、国立大学法人の予算、十六年度から大学法人になっ
て、今後どういう方向に向かうべきかという議論もまだまだ必要。

――18年度概算要求基準(シーリング)で3%減になった科学技術振興費

 公共事業もマイナス3%、社会保障も自然増を合理化していく部分が2200億
円で、科振費だけが去年までは削減なしで飛び出していたのが、概算要求のシー
リング段階では、みんな一律3%減になったということ。関係者の方には、色々
なご意見があるかと思う。

 相当危機的な財政状況になっているという認識が、去年の秋頃から政治も含
めて本格的になっている。特に財政再建していく中で歳出を見直すというのは
当たり前で、同時に歳入も含めて、歳出歳入一体で改革をしないと財政再建は
ままならない。科学技術も含めて、もう一度ゼロベースで歳出全体の見直しを
しなければいけない財政状況にあるということ。

 もちろん、科振費はマイナス3%でシーリングになっているが、年末の予算
案で科振費をマイナスしようということを今決めているわけではない。出発点
はみんなマイナス3%ベースで見直してみて、そこで本当に必要な予算であれ
ば付けていく。もちろん科学技術は重要だと思っているが、本当に必要な予算
は何なのかを、より厳しい目で見ていかなければならない。見直しのプロセス
を経なければいけないという意味では、科学技術も例外ではない。

 本当に必要であれば、1000億円の加算措置の財源も活用しながら、科学技術
の予算を年末に向けて作っていかなければならない。ただし、昨年までのよう
に、他よりも高いベースからスタートするのではなく、みんな同じベースで見
直しをやってみましょう、それで本当に必要な予算は何なのか、秋の予算編成
を通じて文部科学省やその他の関係者の人達から直接ご意見を伺いながら見極
めていきたい。

 社会保障の時も、医療の現場を担当されている開業医・病院の先生とか看護
師さん、薬剤師、製薬メーカー、そういう人達から直接ご意見を聞くことが非
常に勉強になった。ぜひ科学技術の分野でも、現場の研究者の方々や大学の先
生から色々教えてもらいながら、最終的な結論を出していきたい。
(次号に続く)