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新首都圏ネットワーク

『毎日新聞』夕刊 2005年9月8日付

日本学生支援機構:奨学金返還滞納者への取り立て強化へ


 奨学金の貸し付けを行っている独立行政法人、日本学生支援機構(旧日本育
英会、東京都新宿区)は今年度、返還金滞納者への取り立てを強化し、裁判所
への督促申し立てなど法的措置の対象を、昨年度の10倍近い約4000人ま
で拡大する。滞納が増え、会計検査院が回収率の向上を求めていた。同機構は
滞納増の背景に、卒業後も職に就かないニートの増加などがあるとみている。

 ◇法的措置、1年で10倍…今年度4000人

 奨学金は無利子の第1種と、有利子の第2種がある。第2種は日本育英会当
時の99年、景気の悪化などに伴い、保護者の年収など採用条件を緩和して設
けられ、利用者が大幅に増えた。今年度は1種と2種で計約99万3000人
が利用し、総事業費は約7400億円にのぼる。

 一方で回収率は年々悪化し、育英会当時の03年に会計検査院が「債務超過
の恐れもある」として回収率の向上を求めた。機構は電話での督促を外部業者
に委託して回数を増やすなどしたが、昨年度は回収予定の2297億円中、2
割強の507億円が回収できず、過去最悪を記録。督促にもかかわらず1年以
上延滞し続けたうち、特に悪質な462人には法的措置に踏み切った。

 法的手続きに入る予告をし、なお支払わない場合は裁判所に支払い督促を申
し立てる。異議申し立てなどがなければ判決と同等の法的効力が生じ、従わな
ければ強制執行となり、当人や保証人の給料などが差し押さえられる。昨年度
は2件の強制執行があった。

 機構は滞納増について「長引く不況で保証人になっている親がリストラされ
たり、本人が安定した就職先を見つけられず、ニートや短期雇用者になるなど
のケースがあるようだ」とみている。しかし「回収不能になれば政府からの貸
し倒れ引当金で償却するこになり、結果的に国民の税で負担することになる」
と対応強化に理解を求め「どうしても返済できない場合は、返還猶予の手続き
もある。学生には返還猶予の手続きをPRしたり、大学にも協力を呼びかけた
い」としている。【大和田香織】

 ◇返済不能見極めて 

 ▽小林雅之・東京大学大学総合教育研究センター助教授(社会教育学)の話
 欧米に比べると、学生支援機構の奨学金は貸与のみで、従来は実質的な給付
奨学金として機能してきた返済免除も次第になくなってきた。民間育英団体や
大学独自の給付奨学金も著しく少数に限られる中、高等教育の機会均等のため、
学生支援機構の奨学金が果たしている役割は大きい。経済的困窮から大学を去
る学生も増えており、形式的な取り立て強化はこうした事態を悪化させかねな
い。問題は、返済能力がありながら返さない長期滞納者だ。モラルハザードを
防ぐ上で回収強化はやむをえないが、真に返済不能な者との見極めが重要だ。