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『読売新聞』2005年9月5日付 [教育ルネサンス]大学どうする 日本の大学が大きな転換期を迎えている。国立大が昨春に法人化し、200 7年度には大学・短大の志願者数と入学者数が一致する「大学全入時代」が到 来すると予想されている。 大学は今後、どうあるべきなのか。わが国の大学をリードする東京大の小宮 山宏学長(60)と、日本最大級の私大・日本大の小嶋勝衛(かつえ)総長 (65)に、課題と展望を聞いた。 ◇ 東大・小宮山宏学長 世界に先駆ける勇気を ――国立大が昨春に法人化したが、今後の課題は 一番の問題は、教員の能力が十分に組織としての力になっていない点だ。大 学は「源氏物語」から「ニュートリノ研究」まで異質な学術が集まる。それぞ れの高い能力を、組織として協調させていくことが教育研究を活性化させる。 教室の整備などの充実も不可欠だ。 ――昔と比べ学生の気質に変化は 能力の高い学生が入学してくるのは、昔と変わらない。ただ、今の学生には、 一人の世界に閉じこもらず「もっと他人や社会に興味を持て」と言いたい。ま た、日本と欧米の生産力に差があった時代は、外からモデルを導入すれば良かっ たが、今や日本の課題を解決できるのは日本だけだ。そのためには自分が先頭 に立つ勇気も持ってほしい。 ――来春から新教育課程で学んだ「ゆとり世代」が入学する 心配していない。足りない所は後で勉強すれば良い。そもそも「ゆとり教育」 が悪いのではなく、やり方に問題がある。例えば「総合学習がうまくいかなかっ た」というのは、システムを不十分なまま始めたせいだ。 ――大学が今後果たす役割は エネルギーや水、高齢化、貧困など人類が将来も持続していけるかどうか、 21世紀の課題は多岐にわたる。様々な学術を融合させないと解決できない問 題であり、この「解」を出す所こそが大学だと思っている。 ――世界のトップを目指すと公言しているが 日本は抱えている課題の多さでも「先進国」だ。自ら解決していけば、世界 のモデルをつくることができる。東京大学は我が国を代表する大学の一つだ。 だから、世界に先駆けて人類の課題を解決するような大学を目指す。(聞き手・ 久保山健) ◇ 日大・小嶋勝衛総長 学部の垣根取り払う ――新総長として、どのような改革を目指すのか 一見、何でもそろっている総合デパートのような大学だが、各学部、学科が それぞれに秀でた分野を持ってほしい。コンペイトウの丸い部分が大学全体と すると、角を出させるために本部や総長が一丸となって教育環境を整えるとい うイメージだ。また、最近はすぐ精神的に落ち込んでしまう学生が目につく。 骨太な学生に育て上げ、社会に送り出すことを目標にする。 ――2007年度には「大学全入時代」が到来すると言われている。私大の 生き残り策についてどう考えるか 国内の大学卒業生の8割は私大卒だ。その意味でも国民の知的レベル向上に 大きく貢献してきた。今後もその役割は果たしていくべきで、体力を落とさず に質を変えていく“ダイエット”をしなければならない。学部や学科の定員を 縮小することも必要。今まで固定化していた教育概念を、時代の要請に応じて 融合することが大事だ。 ――最近求められている「大学の個性化」への戦略は 時代の要請に柔軟に対応できるよう、現場の教職員が汗をかかないといけな い。学生に学科や学部をまたがった単位を取得させることなども考えている。 「専攻科目の知識だけでなく、幅広い知識を持っています」と、大学として認 定することで、企業にもアピールできると思う。 ――最近の学生の学力レベル、気質をどう見る 2006年度には、「ゆとり教育」世代の学生が入学してくる。専門科目の 基礎学力の強化と、同時に一般教育にも尽力しなければいけないと思う。その ため、系列高校の退職教員などを起用することも考えている。(聞き手・木村 学) |