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新首都圏ネットワーク

『河北新報』2005年9月3日付

地域医師確保へ独自策 東北の大学と県が環境整備


 地域の医師不足を解消しようと、東北の大学が医学部入試に「地元枠」を設
けたり、県が「地元勤務」を条件にした医学生向けの奨学金を用意したりする
動きが広がっている。地域医療の担い手確保に国が有効打を放てない中、地方
が独自策に乗り出した格好だ。医学を志す東北の高校生らには歓迎すべき環境
整備だが、長期的な地域への医師定着には課題も残る。

 受験資格を大学所在地の県の高校出身者に限る地元枠は、福島県立医大(定
員8人程度)が2003年度に始め、弘前大(15人)と秋田大(5人)は本
年度新設した。いずれも推薦入試の一環で、定員は全体の1―2割。東北大は
「国立大の性格上、全国の人材を公平に受け入れる役割がある」と導入に否定
的だ。

 弘前大は推薦の成績基準も地元枠は「4.0」(五段階評価)と、一般の
「4.3」に比べて優遇した。「幅広く学生を集めるため」(医学部)とはい
え、学力レベルの低下を懸念する声もあり、担当者は「受験生の学力によって
は、定員に満たない場合もあり得る」と説明する。

 一方、地域で一定期間の勤務を義務づけた奨学金は本年度、宮城、秋田、山
形県が創設し、6県で制度が整った。

 各県とも国公私立を問わず、大学卒業までの授業料などを月9万―30万円
貸与。卒業後、受給期間と同じ6年から2倍の12年程度、県内の自治体病院
や診療所に勤めれば、返済は免除される。

 地元枠や奨学金の導入は、東北の各大学で医学生に占める地元出身者が3―
4割という背景がある。首都圏などの県外出身者は卒業後、出身地に戻る傾向
が強いという。

 今春、秋田大の新入生95人のうち、県出身者は21人。医学部は「地元組
は7割以上が残ってくれる。長い目で地域の医師を育てたい」と制度の効果に
期待する。地元枠の学生には、秋田県も奨学金を優先的に割り振る方針だ。

 大学や行政は医師確保策に躍起だが、奨学金を受けた学生が卒業時に一括返
済して県外に出たり、地元勤務の義務年限を終えた医師が都市部に移ったりす
るケースもあり得る。

 東北で最も早い1950年度に奨学金制度を設けた岩手県は400人以上に
貸与したが、義務終了後も地元に残った医師は約2割という。県医療局は「何
もやらなければ、医師不足はもっと進んでしまう。できることから取り組むし
かない」と話している。