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新首都圏ネットワーク

『読売新聞』2005年9月1日付

学習塾が「養成大学院」


 教師の養成に学習塾が乗り出そうとしている。

 「学習指導力、学級運営力、コミュニケーション能力のすべてにおいてプロ
と呼べる教師が、今の学校にどれだけいるでしょうか」

 東京・銀座のビル5階にある日本教育大学院大学の設立準備室で、中岡統郷
(とうごう)室長(57)が問いかける。

 「栄光ゼミナール」などの名で、首都圏を中心に学習塾約270教室を持つ
株式会社「栄光」(本社・さいたま市)が、千代田区内で来春の開校を目指す
専門職大学院。そのターゲットは、教員免許を持ちながら、教師以外の仕事を
している大卒の社会人だ。卒業後は、主に私立の中学や高校で教えることを想
定する。

 塾による教員養成は、もちろん前例がない。株式会社による学校運営を認め
た構造改革特区と、高度な職業人を養成する専門職大学院という二つの新しい
制度が、この取り組みを可能にした。



 社会人を私立の中学や高校に送り込もうという背景にあるのは、関連会社に
よる教師希望者と私立学校の仲介事業の反響の大きさだ。5年前にスタートし、
今年4月現在、登録者は1万6260人、求人票を出す私立学校は439校に
達した。

 「教師になりたい社会人がたくさんいる。私立学校は社会人経験のある教師
を求めている。両者をつなぐ大学院にしたい」

 データを示しながら語るのは、大学院の研究科長予定者でもある経営コンサ
ルタントの高橋誠さん(62)(東洋大講師)。

 入学直後の合宿で教師になった自分の姿を想像させる。理想の授業プランを
論文代わりに蓄積する。子供同士のけんかや保護者の無理な注文、学校自体の
不祥事など、トラブルへの対処や解決策を探る授業にゼミ形式で取り組む。そ
んな構想も温める。



 大学院は、まだ文部科学省に認可申請中だ。

 当初は学習塾を使った教育実習も検討したが、文科省から「実習は学校で」
と指摘され変更した。東京私立中学高等学校協会が協力する意向を示しており、
都内の私立学校に実習生を受け入れてもらうことになりそうだという。

 塾の講師が大学院の教壇に立つことも検討した。しかし、「学校の教師の役
割と、塾の講師の役割は違う」と判断し、当面見送る。

 教師の質向上が重要課題と考える文科省も、高い専門性を持つ教員を養成す
るための教職大学院の制度化を進めている。

 この大学院がお目見えするのは、栄光の大学院構想から1年後の2007年
4月からだ。文科省は、大学院教員に占める現場教師の割合など、設置の際の
ハードルの高さを強調、栄光の構想とは一線を画す。

 学習塾を母体にした大学院出身の教師が、普通の大学や大学院で学んだ教師
と、何年か後には、腕を競い合うことになりそうだ。(中島達雄)

 教職大学院 教師の質の向上に絞り、高度な専門職の教師育成に専念する大
学院。実務家教員(小中高校などの教師)の割合は、一般の専門職大学院(3
割)や法科大学院(2割)よりさらに高い4割と設定する計画だ。現職教師が
指導力向上を目指して大学院で学ぶ仕組みは今もあるが、学部卒業後すぐに入
学し、教育学研究を進める学生もおり、目的がわかりにくい面も指摘されてい
る。