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新首都圏ネットワーク

『科学新聞』2005年8月19日付

産学協同 高度専門人材育成へ

新たなインターシップ構築を
17年度 20大学を採択


 新卒の大学院生などに実践的な力が足りないとする産業界の指摘に応えるた
め、産学が一体となって高度専門人材を育成するための制度が動き出した。文
部科学省は、3ヶ月以上の長期インターンシップを中核とする『派遣型高度人
材育成協同プラン』の審査結果を公表、20大学等に採択を通知した。企業と大
学が協力して、将来、各研究分野や企業活動において中核的な役割を果たす優
秀な学生に対して、長期の企業派遣を中心に、正式なカリキュラムの一部とし
て、より実践的な教育を行う。モデル事業として5年間支援、来年度も募集す
る。

 現在、産業界における研究開発系の採用の7割強が大学院修士課程修了者で
あり、博士課程も含めると八割強が大学院修了者。一方、経団連の調査による
と、修士・博士を採用している企業からは「基礎学力不足」「問題設定能力の
不足」「指示待ち的姿勢」など、厳しい指摘がなされている。

 そこで、自らの専門分野の位置づけを社会的活動全体の中で理解し、現実的
課題の中から主体的に問題設定を行い、それに取り組む能力のある高度専門人
材の育成が急務であるという認識が、大学、産業界、両方から高まっている。

 こうしたことから始まったのが、派遣型高度人材育成協同プラン。これまで
インターンシップといえば、単なる就業体験や職業意識の形成だったが、この
プランでは、3ヶ月から6ヶ月に渡る企業での研究開発活動等を中核に、守秘
義務や知的財産の取り扱いなどを企業側がレクチャーする事前教育、学生が学
んだことを新製品や新技術開発まで結びつける事後教育、さらに修士論文のテー
マとして課題研究を行う。カリキュラムの中核として位置付け実践的な力を身
に付ける。

 今回選ばれたのは、北海道大学等7大学共同、東北大学、山形大学、筑波大
学、東京大学、東京農工大学、東京工業大学、横浜国立大学、金沢大学、山梨
大学、信州大学、名古屋大学等4大学共同、名古屋工業大学、三重大学、京都
大学、鹿児島大学、兵庫県立大学、慶應義塾大学、立教大学、立命館大学の20
プロジェクト。今年度は事前調査を行い、来年度から本格実施するのがほとん
どだ。

 東京農工大学は、博士課程後期学生のみを対象に、学生の専門分野にとらわ
れず、世界で活躍できる広い視野を持った人材を育成する。信州大学は、長野
県下の地元企業に学生を派遣し、創業精神と世界レベルのものづくり技術を学
ばせる。名古屋大学等は、クローン羊作出などで畜産・酪農科学をリードして
いる英国のロスリンとハナ研究所、これらからスピンアウトした企業群に学生
を派遣、国際的視野の行動力を持つ次世代を育成する。

 鹿児島大学は、食品業界がいま求めている「食の安全と安心」を担う食品安
全マネージャーを養成するため、食品製造で重要な認証制度であるHACCP
とISOを理論と地元メーカーでの実践教育で学ぶ。立教大学では、CSR
(企業の社会的責任)の推進人材を、大学、企業、NPO/NGO等社会組織
の産学民共同で育成する。

 これまでの大学院教育の多くは、大学内あるいは大学間にとどまるものだっ
た。21世紀の知識基盤社会における教育は、より多様性が求められるため、こ
うした取り組みは非常に評価できる。しかし、各プロジェクトとも大学院の専
攻を単位に5〜10人程度ですべてをあわせても約150名ほどにしかならない。さ
らなる充実が望まれる。