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『朝日新聞』2005年8月29日付 経済気象台 問われる大学の存在価値 大学の教育現場で若者を見ていると、10年先、20年先の日本は、一体ど うなっていくのか、大変心配になってくる。読み書きソロバンといった基礎知 識が不足し、英語、歴史などの基礎教養が身についていなくても入学できる。 まさに、全入時代を迎えている。 私立大学でも、第三者機関による評価を受ける制度が始まり、その結果が一 般に公表されるようになる。これは直ちに受験生確保に影響するとあって、現 在、各大学とも特長ある教育を推進すべく、改革に取り組んでいる。 ところで、改革には常に不協和音が伴うものである。とりわけ、閉鎖的な社 会である大学では、改革のために、大学特有の課題を克服していく必要がある。 その基本課題の第1は、教育組織と事務局組織の統制、融合化である。教育 組織は教育・研究の論理であるのに対し、事務局は運営の論理である。平常時 には両輪となって、うまく機能するが、改革時にはややもすると対立意識を生 み、目的達成が難しくなってくる。よほど両者の情報交流を円滑にする努力が 大切である。 もう1点重要なことは、研究か教育か、という問題である。研究にはコスト がかかるので、それよりも社会に出して恥ずかしくない学生教育に専念すべき だとの即効性を重視する考え方が強くなっている。だが、これはあまりにも目 先にとらわれすぎではないか。大学はやはり知の殿堂であり、社会の変化、高 度化に対応して研究を蓄積してこそ、大学の存在価値がある。その意味で、教 育も研究も必要である。 ただその際、教育・研究の諸成果をどのように大学組織の力としていくかで ある。研究室が個人商店の集まりであっては困る。成果を社会に問いかける仕 組みを作り、利用分野を開拓する人材を学内で育てる必要があろう。いま進行 中の日本経済の改革に、教育改革が伴って初めて、日本の将来が望める。(共 生) |