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新首都圏ネットワーク

『河北新報』2005年8月30日付

東北大移転計画 資産売却が最大の鍵 事業費工面なお不透明


 東北大の青葉山キャンパス移転計画が構想発表から10年を経て、本格的に
動き始めた。自己資金による国立大の移転は例がなく、法人化後の新たな運営
モデルとしても注目される。今後は移転費用の原資とする大学の資産売却や、
新キャンパスの将来像の具体化などが焦点となる。

<実効性>

 計画実現は、自己資金の確保が絶対条件。雨宮キャンパス(9.2ヘクター
ル)と片平キャンパス南側エリア(5.5ヘクタール)の売却が、最大の鍵を
握る。

 片平全体(23.6ヘクタール)を移転対象とする当初構想を示した199
5年、両キャンパスの土地評価額は約1500億円。県有地購入に加え、施設
整備費まで賄える金額だった。県有地明け渡しをめぐる宮城県とゴルフ場の協
議が長引き、現在の評価額は3分の1程度。「移転費用の方が高くつく」(大
学幹部)状況だ。

 2002年と今回、2度にわたる片平の移転規模縮小は、厳しい経済・財政
事情が背景にある。

 雨宮は複数の民間企業が水面下で触手を伸ばし、片平も学校法人東北学院が
購入する方針を固めている。「売却先は確保できそう」(幹部)だが、約20
0億円と試算される第1期の事業費に見合う金額を工面できるかどうかは、不
透明だ。

<将来像>

 青葉山キャンパス移転計画は雨宮の農学部、片平南側エリアの電気通信研究
所など対象施設や、整備スケジュールが明示される一方、新キャンパス全体の
将来像は今のところ、従来の構想の域を出ていない。

 構想では、移転の先陣を切る農学部はバイオや生命科学、電気通信研究所は
情報技術の分野で、既に青葉山にある工学部や薬学部と連携。新たな研究分野
を開拓して企業や研究所も誘致、「日本版シリコンバレー」として産業創出も
目指す。

 現段階では、制度設計は手探りで、具体的な研究テーマなど移転後の「青写
真」も見えない。造成工事に着手する07年度までに構想をどこまで肉付けで
きるか、東北大の真価が問われる。

<街の顔>

 雨宮、片平とも仙台市中心部の「一等地」。跡地活用に対する市民の関心は
高い。

 片平は、近代中国の文豪・魯迅が学んだ階段教室をはじめ明治以降の近代建
築物が数多く残る。緑も豊かで、文化と自然を感じられる市民の「憩いの場」
でもある。

 大西仁理事は「地元から『片平はそのまま残してほしい』という声が強かっ
た」と述べ、移転規模縮小の判断材料の一つになったと説明。今後、市民との
交流機能を強化する姿勢も示唆した。

 片平南側エリアを購入する東北学院も大学用地として活用する方針で、閑静
な環境は維持されるとみられる。

 一方の雨宮は、民間の手に委ねられる公算が大きく、巨大開発となれば、街
の顔や人の流れが変化することもありそうだ。

【東北大キャンパス移転をめぐる経過】

1995年12月 東北大が青葉山県有地への雨宮、片平両キャンパス全面移
転構想を発表
  97年12月 宮城県がゴルフ場に県有地明け渡しを求める民事訴訟を仙
台地裁に起こす
2002年5月 東北大が片平の全面移転方針を一部縮小
    12月 仙台地裁が宮城県とゴルフ場に和解案提示
  03年4月 和解成立
  04年8月 東北大が要望していた県有地購入費が05年度政府予算概算
要求で見送られる
  05年1月 ゴルフ場が県有地明け渡し
     8月 東北大が自己資金、片平の移転規模縮小などを盛り込んだ移
転計画発表