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『産学官連携ジャーナル』2005年8月号Vol.1 No.8
2005 産学官コラム ちょっと一言 企業にとっての都合のよい大学 経済産業省が、報告書「技術移転を巡る現状と今後の取り組みについて」 (2005. 6. 9)*1を公表した。国公私立大学および政府系研究機関の産学連携 活動について、産業界から見た評価について調査・分析を行うとともに、産学 連携活動推進のうえで妨げとなっている事項について、大学側にもアンケート 調査を実施し、報告書としてとりまとめたものである。新聞各紙にも大きく採 り上げられ、日経新聞(6. 10朝刊)では、1面に、産学連携で企業の評価が高 い大学(研究機関)の上位10校を実名も含めて大々的に報じていた。 しかし、こうした調査報告や新聞報道に対して、首をかしげる識者も少なく ない。 評価の対象は、1.大学・知的財産本部などの産学連携担当部局の事務処理能 力、2.大学などの産学連携関連規定とその運用、3. TLO(技術移転機関)の技 術移転能力、の総合評価としているが、あくまでも企業側からみた評価である。 同報告書では、「大学の立場を理解せず、企業の立場のみを主張する」との、 大学側からみた企業に対する不満も紹介されている。大学側からは、「不実施 補償」などにみられる企業側の柔軟性の欠如や、研究成果の公表の規制、企業 は短期的な利益を重視し長期的な視点に欠ける、といった不満も根強い。 大学の使命は、教育、研究に加えて、社会貢献−大学の持つリソースを活用 して豊かな社会を実現すること−にある。産学連携は、あくまでもその手段に すぎず、産学連携自体を目的化してはならない。国立大学の法人化後の困難な 大学経営を背景として、企業からの資金の導入をあまりにも優先することは、 長期的には、大学の存在価値自体を危うくすることになる。公的な大学の研究 成果が一企業の利益にもっぱら貢献するものであってはならない。大学は、た とえ企業から嫌がられたとしても、大学の主張を貫き、公的な立場を踏まえた 産学連携を目指さなければならない。 企業からの評価の高い大学が、「企業にとっての都合のよい大学」のランキ ングになってしまったら、もはや日本の将来はない。(大学教授) *1:http://www.meti.go.jp/policy/innovation_corp/top-page.htm |