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新首都圏ネットワーク

『日本経済新聞』Bizplus 2005年8月19日付

「活発化する大学発ベンチャーの行方」

(日本マーケティング協会「マーケティングホライズン 2005年6月号」より)


 昨年4月に旧国立大学が独立行政法人に移行するのに伴い活発化してきたの
が、大学のもつ豊富な知識・ノウハウを活用したビジネス開発である。

 ひとつは“大学発ベンチャー”創設の動きが加速していることだ。もちろん、
いままで産学協同という形で大学と民間の連携はかなり進んでいたし、工学系
の研究室では民間企業との共同研究は不可欠であった。日本の企業やエレクト
ロニクス、メカニクス、先端材料などの分野において世界を席巻してきたのも、
大学のもつ技術力をたくみに移転できたからだ。

 ところがここへきて目立つのは、大学およびそこに所属する研究者がイニシ
アチブを握り、企業にも出資を呼びかけ、積極的にベンチャービジネスを設立
する動きである。そしてベンチャーキャピタルなどから資金を集め将来の上場
を狙うところも多くなってきた。

 たとえば、東大発のベンチャー1号であるシーテックでは、ナノコロイドの
白金が含まれた水をもとに、医療品や化粧品、飲料等の分野に進出し収益を上
げ、2〜3年後の株式公開を射程に入れつつある。

 世界で最初に人間の五感を再現する味覚センサーを開発した九州大学大学院
教授の都甲潔氏は、そのノウハウをもとにセンサーを開発するインテリジェン
トセンサテクノロジーと、それによって得られた味・香りのデータを「食譜」
として提供する味香り戦略研究所の2つのベンチャービジネスを設置し、食品
メーカーなどへの情報提供ビジネスを開始した。また宇都宮大学・野生植物研
究センターでは、芝生に代わるグランドカバー植物として、日本に自生する多
年草のイワダレ草をもとに「カンパーニャ・ヴェルデ」というグリーンを開発、
それを販売するオフィス・ファインを民間と共同で設立した。

 多様な動きを見せる大学発ベンチャーであるが、気になるのはその知的財産
権の管理問題だ。大学から産業界への技術協力の窓口となるのがTLO(技術移転
機関)だ。特許などをライセンス供与し、特許料などの収入を大学にもたらす。
しかしTLOが法的に整備されたのは1998年と大学の法人化以前だったため、その
多くは学外に設置せざるを得なかった。しかし法人化で大学が知的財産権をも
つことも可能となり、TLOとの二重構造の問題も生じている。そこで大学内部に
一元化する動きや知財の信託化などを導入する動きも検討されているが、大学
ベンチャー設立もそうした知的財産権を民間と共同保有することで、今後のビ
ジネス開発を有効に推進するひとつの手段として考えられる。

 いずれにしろ大学のもつノウハウや知識・データが、産業界を活発化し、新
たな市場を開発することにつながる。この動きは今後、技術系だけにとどまら
ず、独自のノウハウを蓄積している芸術系や法学系、さらにはビジネスモデル
開発を進める経営学系にも波及する可能性をもつ。あるいはデータ解析などを
するマーケティング会社設立の可能性も含んでいる。大学発のマーケティング
企業も夢ではない。

(コミュニケーションシステム研究所所長 平林千春)

日本マーケティング協会
 1957年に設立された社団法人。産学協同の下にマーケティングの理論と技法
の研究、教育、普及に努め、日本の経営の近代化と産業の発展に力を注いでき
た。特に、創立30周年を迎えた1987年からは世界的視野に立って事業内容を飛
躍的に拡充するとともに、北海道から九州まで協会組織の全国化を実現、マー
ケティングのナショナルセンターとして活力あふれる活動を展開している。
 2001年4月現在、会員は全国の企業及び団体約700社。さらに第一線マーケティ
ング学者約300名が学者会員として協会の運営、企画、指導に参画している。
「マーケティングホライズン」は同協会発行の月刊機関誌。
ホームページ:http://www.jma-jp.org