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新首都圏ネットワーク

『朝日新聞』埼玉版 2005年8月13日付

意気込む大学 戸惑う学生
埼大教育学部が「教員養成」に特化


 埼玉大学教育学部が来年度から、教員免許取得を目的としない「ゼロ免課程」
を廃止し、教員養成課程に特化する。県内の教員の大量退職で採用者の増加を
期待し、カリキュラムの強化などで「質の高い教員を地域に送り出せる」と意
気込む。教員養成系学部の在り方が問われ、新人教員の指導力不足も批判され
る中での、生き残りをかけた選択だが、在学生の思いは複雑だ。

「質の高い教員送り出せる」 「開かれた学校の流れと逆」

 廃止されるのは、生涯学習、人間発達科学の2課程。社会教育主事、スポー
ツプログラマー、市役所の教育担当職員といった、教員以外の教育関係者を就
職先に想定し、99年に設置された。生涯学習は社会教育、健康スポーツ、人
間発達科学は心理カウンセリング、福祉カウンセリングの各2コースあり、今
回、それらを廃止・統合して、養護教諭の養成課程を新設する。

 さいたま市と県の小中学校教員は、団塊世代や、県内の人口流入期に採用し
た教員の大量退職で、今後、年千人超の採用が10年以上続くと予想されてい
る。しかし同時に、大量採用に伴う教員の質の低下も懸念されており、実際に
ここ数年、県では小学校で教員採用試験の競争率(倍率)が低下し、04年度
採用試験の全国平均4・8倍を下回る3倍台で推移している。一般に「小学校
で3倍を切ると、教員の指導力は危険信号」とされ、県教育局は、倍率の高い
県に募集をかけるなどして、母数の拡大をはかっている。

 同学部では現在、教員養成課程の約5割にあたる、年200人前後が教員に
なる。そのうち約7割が、さいたま市をはじめとする県内小中学校に配属され
るが、改組にあたり先月、記者会見を開いた渋谷治美・教育学部長は、「(5
割という)数字には満足していない。他大学と比べて多い方とは言えない」と
し、「再編後の目標は、教員養成課程の6割超。年300人以上の質の高い教
員を地域へ送り出したい」と力を込めた。

 他にも、地域でのボランティアや、学生が小学校で担任教員を手伝うなどの
支援・実習をカリキュラムに多く盛り込むことで、学生の社会性や経験値、地
元大学としてのメリットをPRしていく。また、全国的に「新人教員に専門知
識が乏しく、指導力不足の一因となっている」とする意見があるため、同学部
で現在24単位、他大学でも20単位程度の専門科目を、30単位まで強化す
る。

 文科省は今年3月、教育学部の学生定員の抑制方針を撤廃。教員養成のため
の専門職大学院設置も検討され、全国の教員養成系大学・学部の在り方を見直
そうという動きが出ている。

 一方で、在学生の中には戸惑いの声もある。廃止される課程の学生は、「決
める前に学生に相談して欲しかった。教員免許がなくても、専門分野を生かし
て教育に携わる人がいていいはずだ。特化は『社会に開かれた学校』という時
代の流れに、逆行しているのでは」と首をかしげた。

 教養学部の学生は、「特化のせいで、教育学部は免許や就職のための勉強一
辺倒になり、他学部の学生が教員免許を取りにくくならないか心配だ」と話し
ていた。